里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

不漁が続く愛知のシラスウナギ 日没後の漁場を取材

〈『日本養殖新聞』2014年寄稿、2020年6月8日加筆修正〉

f:id:takashi213:20200608154420j:plain

日没から始まるシラスウナギ漁。発電機の鈍い音が響くなか黙々と行われていた

各地で好漁が伝えられている2013年度のシラスウナギだが、実際の現場はどのような状況にあるのか。養鰻の盛んな愛知県で行われている漁場を歩いてみた。

初春に入り、陽気の感じられる2014年3月の終わりに訪れたのは、県内にある2ヶ所の漁港だ。シラスウナギの採捕許可をもつベテランの業者に案内してもらい、日没にあわせてまずは内湾に面した1つ目の漁港へと向かう。

地元のウナギ事情に詳しい、同行した業者によると、今シーズンの漁模様は「海も川もよくない」という。資源保護のため漁期の開始が半月遅くなり、昨年12月16日から始まった県内のシラスウナギ漁。ある地区における問屋への出荷価格を聞くと、キロ当たり約120~130万円からスタートし、現時点(4月中旬)では20万円くらい。採捕匹数が伸びないため稼ぎにならず、今シーズンも漁場に通う採捕者の数は少ないという。

同県で広く行われているのが、漁港の岸壁や河岸から垂らしたランプを水面に浮かべて水中を照らし、集まってくるシラスウナギをたも網ですくう「手すき」と呼ばれる漁法だ。

湾に面した小さな漁港に着くと、外気は15度あるものの強風が吹き荒れ、凍えるような寒さが全身を襲う。ちょうど近くの岸壁から明かりがもれ、60代くらいの男性が暗闇のなかで漁を行っていた。

「今日はにごっている」という揺れる海面に目を凝らし、光源に集まるシラスウナギをすくう。覗き込んでも、透き通った小さな魚体は素人の目にはよくわからないが、「慣れると見えるようになる」という。

この時の収穫は、日没から1時間で15匹くらいか。「100匹はすくえないと(厳しい)」。案内してくれた業者がつぶやく。この日の漁も低調なようだ。

続いて向かった別の漁港も採捕者は少ないようで、見える灯りは5、6つといったところ。たくさん捕れた昔の最盛期には、多くの灯りが漁港を照らし、驚くほどだったという。

漁を行っていた一人の男性にうかがうと、「一晩で5000円もいっていない。ゼロの日が何日もある」と落胆した様子で話し、この日も2時間ほどで漁を切り上げた。かつて好漁が続いた頃には、一晩で1キロ捕れたこともあったという。

漁は4月いっぱいまで行われる予定だが、同県では好漁の兆しは依然としてみられない。採捕で得た収入を頼りに生計を立てる業者にとっては、苦しい状況が何年も続く。今シーズンの最後まで、漁の動向を注視したい。(新美貴資)