里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】とれたてをすぐに加工!天日干しでおいしく味わえる大浜のシラス

〈『DoChubu』2010年8月20日更新、2020年4月20日加筆修正〉

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この日とれたシラスは伊良湖岬のすこし先でとれたもの。サイズ、色ともに良いものが多かったそうです

伊勢、三河湾に面した愛知県では四季を通じていろんな魚がとれます。なかでもたくさんとれる魚の代表格がシラスです。春から秋にかけて伊勢、三河湾渥美半島の外海で漁獲されるシラスは、カタクチイワシやマイワシといったイワシ類の仔魚。スーパーや魚屋の売り場には、釜揚げシラスやチリメンに加工された製品が並び、家庭でも食べることの多いとても身近な魚です。

愛知県のシラスの漁獲量は全国第1位(2008年)。県内の各地では、シラスをとる漁が盛んです。水揚げされる漁港の周辺には加工場も数多くあって、漁が行われるシーズン中は産地全体が活気づきます。そんな様子をみようと、梅雨も明けて強い日差しが照りつける7月中旬のとある日に、愛知県碧南市の大浜漁港を訪ねてみました。

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臨海工業地帯のなかにある大浜漁港。多くの船がずらりとならんでいました

名鉄「碧南駅」から歩くこと約15分。黒壁の木造家屋や古い商家などが建つ、歴史を感じさせる町のなかをしばらく進むと広がる視界の先に海が見えて、多くの船がとまる大浜漁港があらわれます。港湾を中心とする工業都市として発展を遂げてきた碧南市。漁港の周辺は、埋め立てによって造成された工業地帯が続いています。大浜地区は、古くから海運の港として栄え、漁業が盛んに行われてきました。今も多くの船がこの港から伊勢、三河湾、さらには渥美半島の沖へと繰り出して、たくさんの魚をとっています。

シラスの水揚げを見ようと、漁港の魚市場に着いたのが昼前。夜明け前から漁にでていた船はすでに戻りはじめ、とれたばかりのシラスが次々と運びこまれていました。

女性の支えがあって成り立つ漁

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漁船からベルトコンベアで次々と運ばれてくるシラス。 仲買人が鮮度やサイズ、色などを素早くチェックします

魚市場では、ちょうど入札が始まろうとするところ。すぐ前の岸壁につけた漁船では、漁業者がシラスの入ったカゴを黙々と運び出し、ベルトコンベアに乗せていきます。次々と流れてくるカゴを陸で受け取るのは奥さんたち。声をかけあいながら要領よくカゴをさばき、あっという間に積み上げて入札にかける準備を進めていきます。家族総出で行われる荷揚げの作業。漁はこうした女性の支えがあって成り立っています。

入札に参加する仲買人が、荷揚げされたカゴのなかへ素早く手を入れてシラスをすくい、真剣な表情で鮮度やサイズ、色などをチェック。運ばれてきたシラスは次々と入札にかけられていきます。その間にも漁船は続々と入港。多くの人々の声が響きわたるなか、仲買人やフォークリフトが忙しく行き交い、魚市場のあわただしさはピークを迎えます。こうした光景が1時間ほど続き、この日の入札は12時半頃に終了。魚市場には再び静かな時が訪れます。

サイズも色もさまざまなシラス

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透き通って輝いていたとれたての新鮮なシラス

魚市場に積み上げられたカゴに近づいて中をのぞくと、とれたばかりの透き通った体長2センチほどのシラスがぎっしりと詰まっていました。この日、魚市場にあがったシラスの多くは、渥美半島伊良湖岬の地先でとれたものだそうです。「今日はサイズ、色もいいよ」。近くにいたベテランの仲買人が満足そうな表情で話します。この日は久しぶりにまとまった量のシラスがとれたそうで、魚市場からは活気に満ちた雰囲気が伝わってきました。

シラスは船びき網という漁法でとります。2隻の船で網をひいて魚をとり、1隻の船が水揚げした魚を漁港へ運搬する。3隻の船に5、6人が乗り込んで行う漁です。「シラスにも大きさや色などがいろいろあって、一つではないよ」と教えてくれたのは、船びき網の船頭をしている石川清隆さん。漁師歴30年のベテランです。色ひとつをとっても、白いものばかりではなく、腹の部分が黒っぽかったり、茶色っぽかったり。場所や水深、時期によって色やサイズなど、とれるシラスも様々なのだそうです。

作業は常に危険との隣り合わせで、「海のうえではありえないことが起こる」。濃霧や雨など悪天候のなかでの航行は細心の注意が必要で、網をひいている最中もトラブルが起きないよう、周囲の海上や潮の流れに気を配ったり。漁の大変さについてもいろいろとうかがいました。

こだわりの天日干しでさらにおいしく

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茹で上がったシラスがせいろにのせられ、天日に干されていきます

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(左)陽の光をたっぷり受けてつくられるシラスの加工品 (右)加工場を案内してくれた角谷さん(右)、奥さんの妙子さん

シラスはすぐに鮮度が悪くなってしまうため、魚市場での取り引きを終えると、すぐにトラックで加工場に運びこまれます。新鮮なうちに塩ゆでされ、乾燥や冷却といったいくつもの工程を経て、チリメンなどの加工品がつくられます。この日、入札に参加していたカネク水産社長の角谷榮治さんに作業の現場を見せてもらいました。漁港からすぐのところにある同社は、シラス干しやチリメンなどの加工品を製造しています。先代から事業を引き継いだ角谷さんは、40年以上にわたって大浜であがったシラスを扱い続けています。

1947年の創業当時からのこだわりは、塩ゆでしたシラスを天日に干していることです。工場内には乾燥機があるのですが、太陽の自然の光にもあてることで、さらに色つやと味が良くなるそうです。

この日に魚市場で仕入れたシラスが茹で上がったとのことで、さっそく干す作業を見せてもらいました。従業員の手によって、せいろの上に真っ白なシラスがふんわりと敷き詰められていきます。まぶしい陽の光をいっぱい受けて、自然の恵みをたっぷりと吸収していました。「シラスはカルシウムがたっぷり。毎日少しでもいいから食べて欲しいですね」と日に焼けた笑顔で熱心に話す角谷さん。シラスのことについて、いろいろと教えていただきました。

現在、大浜では7軒の業者がシラスの加工品をつくっており、漁のシーズン中には港の周辺で天日干しの光景を目にすることができます。漁業者が伊勢、三河湾、さらに渥美半島の外海まで乗り出してとってきた新鮮なシラスを、加工業者が鮮度はそのままに大切に扱って、自然の恵みをうまく利用しながらシラス干しやチリメンをつくり続けています。

普段、身近な水産物として食べているシラスの加工品。海での漁獲から魚市場を通しての流通、さらには加工場での製造まで、産地では多くの人が日々汗をかいています。とる人からつくる人まで、いろんな人々の手によって製品はつくられています。この日にうかがった方の言葉や思い、そして目にした光景を忘れず、大切に味わっていきたいと思いました。(新美貴資)

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