里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】セントレア周辺に生える未利用資源を商品化。シャキシャキでネバネバな食感が新しい常滑のアカモク

〈『DoChubu』2012年8月2日更新、2020年4月23日加筆修正〉

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伊勢湾の常滑沖で収穫された海藻のアカモク

いま伊勢湾で注目を集めている、一つの面白い海藻があります。アカモクという、岩場にはえて長いものでは4メートルまでのび、一年で成長し枯れてしまう海藻です。この海藻、昔から伊勢湾には自生していましたが、食用として使われることはなく、枯れて海面をただよう藻が漁船のプロペラにからまったり、漁港のなかに流れ込んできたりと、漁師からは「やっかいもの」扱いされ、見向きもされてこなかった海の植物でした。

利用価値がないようにみえる海藻なのですが、東北や九州地方では食用として利用されており、近年では神奈川県のほうでも食用化の動きがすすんでいるそうです。伊勢湾に面した愛知県常滑市でも、地先にうかぶ中部国際空港セントレア)の空港島の護岸に多く自生しており、これをなんとか利用できないかと、空港会社と地元漁師が手を組んで2年前にアカモクを商品化。地元の特産品として販売に力を入れています。

今回はそんな常滑で行われているアカモクの収穫に同行。漁師さんから話をうかがいました。

漁師たちのゼロからの挑戦

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街のなかにあってのんびりとした風情がただよう常滑漁港。底びき網や定置網漁が行われており、港では開いたアナゴが干され干物づくりが行われていました

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アカモクを収穫し商品にしている「海産物とこ丸」の代表・鯉江さんの漁船に乗せてもらい この日の漁場へ。後方に見えるのはセントレアの空港島

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空港島の護岸付近にはアカモクがびっしりと生えていました

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海面をおおうほど繁茂していたアカモク

今回の場所となる常滑漁港へ向かったのは4月下旬のこと。名鉄常滑駅から歩いて20分ほど。オフィスや商店、民家をとおりぬけ漁港に着いたのは、朝もやがすこしずつ消えて、のぼり始めた陽が明るさを増す早朝のころでした。静けさがただよう漁港のなかで、出港にそなえる何人かの漁師さんの姿を見つけました。地元で長年漁を続けている鯉江光隆さんもその一人。現在はアカモクを収穫して加工、商品を販売する「海産物とこ丸」の代表取締役でもあります。

セントレアを運営する中部国際空港株式会社から、空港島の周辺に自生するアカモクを商品化しないかと相談を受け、鯉江さんら地元の漁師5人が手をあげて取り組みを始めたのは2年前のこと。空港担当者が集めた情報をもとに、一緒になってアカモクについて研究をかさね、食用として普及している岩手の漁師からも教えを受け、試行錯誤のすえ商品化にこぎつけました。

「天然あかもく セントレアの恵み」と銘打った商品を開発・販売して今年で3年目。当時はいろんな面でとまどいがあったそうですが、「わからないけどやってみようという挑戦だった」と鯉江さんは振り返ります。魚価の低迷などによって苦境に立たされている漁業経営のなかにあって、ゼロからの取り組みはとても勇気のいること。その一方で、これまで食べられてこなかった未利用資源の開発は、新たな希望を見出すチャンスと映ったのかもしれません。

さっそく鯉江さんらが準備する漁船に飛び乗って、アカモクが自生しているポイントを見せてもらうことに。漁港を出てぐんぐんすすむと、あっという間に空港島が目の前にあらわれてきます。さらに近づくと、コンクリートの入り組んだブロックが連続する護岸ちかくの海中には、茶色の海藻がびっしりと生えて海面までのび、波の動きにあわせてゆらめいていました。

アカモクは空港島のまわりを囲むように生えているそうです。この地点は、島の北東のあたり。ちょうど潮の流れがぶつかるところらしく、乗っている小型の漁船は荒い波にもまれ、上下左右に激しくゆれ続けます。ずっとカメラをのぞきこんでいると、すこしずつ酔いがまわってくるのを自覚します。それでも初めてふれる光景を自身の目とともにカメラでもしっかりとらえようと、体勢をしっかりかまえ、夢中でシャッターを切り続けました。

大変な選別の作業

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海中のアカモクを手でひっぱりあげ適当な長さのところでカットして収穫します

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刻んだときにうまれるネバネバのもとになる、アカモクのふくらんだ胞子の部分。この胞子の大きさで成長具合がわかるそうです

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収穫したアカモクは水にさらし、付着している汚れがないかなどをチェック。収穫後は屋内での作業がひたすら続きます

空港島の護岸をはなれ、この日の漁場である常滑沖の漁港にも近い、大きな杭(くい)がならぶ水深約3メートルのポイントへと移動しました。漁師さんたちは、係留した漁船から上半身をのりだし、海中に手をいれてアカモクをひっぱりあげ、伸びた先っぽから1メートルぐらいのところを鎌でもくもくと刈っていきます。

アカモクは色の濃いものが、ボイルしたときに色鮮やかな緑になってよいそうです。ぷっくりとふくらんだ、先端の細長い胞子の部分。このネバネバをうむ胞子の大きさで、アカモクの成長具合がわかります。大きなカゴには、海水を含み輝く茶色の海藻がどんどん埋まっていきます。

収穫されたアカモクを手にとって見ると、大きさ1センチぐらいの、カマキリのような格好をしたワレカラという生き物の一種が無数に付着し、うごめいているのが確認できました。海藻を棲みかとするたくさんの小さな生き物。こうした生き物が、魚などの餌になって、きっとたくさんの生命を育んでいるのでしょう。アカモクが密生する藻場も、伊勢湾の生態系を形づくる、「海のゆりかご」として重要な役割を担う場所のひとつとなっているのかもしれません。

アカモクの収穫が行われるのは、胞子が成熟する例年3月から4月ぐらいまで。この時期に商品として使う1年分のアカモクを採っておき、冷凍保存にかけます。この日の収穫は500キロほど。採ったアカモクは、漁港近くの倉庫へと運び、一つひとつを水で洗い、手でたぐりながら胞子の有無や付着している汚れがないかなどをチェックします。ネバネバをうむ胞子は商品にするうえで大切な部分。胞子のついていない茎だけの部分は取り除いていきます。

「選別が一番大変ですね」。蒸し暑い倉庫のなかで休まず手先を動かす一人の漁師さんが、目で指先の部分を追いながら話します。先に収穫をし終えた漁船が帰港し、作業を始めたのは午前11時半をまわったあたり。いまは慣れてきたというこの作業ですが、「最初のころはとても時間がかかった。夜8、9時だと早く終わったほう」とも言います。

商品に使う部分を選別したアカモクは、マイナス25度の冷凍庫で急速凍結して保存。凍結した後に解凍すると、付着していた虫もきれいにはがれるそうです。解凍後にボイルし、胞子や茎を機械で細かくしたものがパックにつめられ、商品となります。クセのない味でシャキシャキとした茎の部分や、胞子がうむネバネバした食感は新しく、味噌汁やサラダ、そばやパスタにかけてもあうそうですが、記者は商品についているタレをかけ、そのままご飯と一緒に食べるのが好みです。

セントレアにある飲食店では、アカモクを使ったつけ麺やそば、きしめんを味わうことができ、アカモクを使ったせんべいも販売されています。また「天然あかもく セントレアの恵み」は、地元や名古屋および周辺の一部のスーパーでも扱っています。

常滑でうまれたユニークな特産品。地元漁師たちの新たな挑戦はまだ始まったばかり。これからの展開を楽しみにしながら、活動を追っていきたいと思います。(新美貴資)

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