〈『DoChubu』2012年8月25日更新、2020年4月23日加筆修正〉
伊勢・三河湾とその流域で獲れる魚を調理して味わう、なごや環境大学の講座「味わって知る わたしたちの海」(主催:伊勢・三河湾流域ネットワーク、山崎川グリーンマップ)の今年度(2012年度)第1回が2012年5月10日(木)に名古屋市昭和区の昭和生涯学習センターで開かれました。
今回のテーマは「マイナー魚を食べる&ヒジキってどんな海藻」で、一般から申し込みのあった約30人が受講。参加者は、伊勢・三河湾で獲れた、名古屋市内のスーパーや魚屋では見ることのない、めずらしい色や形をしたたくさんの種類の魚をさばいて調理し、かまぼこづくりも体験しました。
講師には、愛知県水産試験場漁業生産研究所(南知多町)の主任・日比野学さんが招かれ、講座で扱う魚について解説。県内で盛んな底びき網漁業なども紹介、県内の水産業について多くの話題を提供しました。
めずらしい魚にあがる驚きの声
今回調理するメニューは、たくさんの種類のマイナー魚を使ってつくる、かまぼこや空揚げ、煮魚のほか、イシガニの味噌汁、ヒジキご飯です。
このうち、受講者がメインでつくるのは、かまぼこ、煮魚、味噌汁の3つ。調理に入る前に講師の日比野さんが、参加したみなさんを前にして、扱う魚を一つひとつ説明しました。クラカケトラギス、キュウセン、ヒメジ、クロムツ、ギンポ、テンス、ミシマオコゼ……。どの魚も漁によって獲られ、西尾市一色町にある魚市場で今朝仕入れたものです。
調理台のうえには、名古屋市内のスーパーや魚屋では見ることのない、大きな目をしたりぷっくりとお腹のふくらんだ、赤や青、黒色がかっためずらしい形、色をした15種ほどの魚たちがならんでいます。日比野さんが手にとって名前や生態などをわかりやすく解説すると、参加者からは驚きの声が何度もあがりました。
かまぼこづくりに夢中
調理が始まると、講座はもっともにぎやかな時間へと入ります。参加した人々の多くが楽しみにしていたのが、かまぼこづくり。講座のスタッフから説明を受けると、さっそくグループに分かれて挑戦です。
まずはマエソの頭を落として、内蔵と中骨を除去。体を開いたらスプーンで身をすくい、氷水のなかにさらしてかき混ぜ、臭みや余分な脂、水溶性のタンパク質などを除きます。氷水のなかで魚肉が沈殿したら、上澄みを捨てる。この工程を2、3回繰り返し行います。
その後、魚肉を取り出し、ペーパータオルにくるんで水気を取るのですが、その際にあまり力を入れると身がボソボソになってしまいます。かといって、水分が多く残ってしまうと仕上がりが悪くなってしまうので、この加減が食感豊かなかまぼこをつくるうえでの一つのポイントになりそうです。
程よく水気を取ったら、今度はフードプロセッサーにかけ、魚肉の重量にあわせて塩、
卵白などの調味料を分量を正確にはかり加えていきます。こうしてかまぼこの原料ができあがったら、用意した板のうえにテーブルナイフを使ってたっぷりのすり身をのせて成形。40分ほどねかせます。最後に弱火で15分ほど蒸して氷水で冷やせば、かまぼこの完成です。
参加したみなさん、「かまぼこをつくるのは初めて」という方がほとんど。板のうえにすり身を盛っていく成形の工程も、ベトつく魚肉をナイフでていねいに形を整え、夢中になって調理を楽しんでいました。
様子をじっと見つめ取材していた記者も、成形を体験させてもらうことに。すり身に独特の粘りがあって、表面になめらかな曲線をえがく、きれいな仕上がりとはいきませんでした。それでも普段なかなか味わえない体験はとても面白く、蒸した後のできあがりがとても楽しみで、早く食べてみたいというワクワクした気持ちが、作業をするなかで大きくふくらみました。
マイナー魚を家庭の味付けで仕上げる
今日の主役であるマイナー魚は、頭と内臓を取り、ぶつ切りにしてそのまま鍋へ。いつもみなさんが家庭でつくっている味付けで、煮付けに仕上げていきます。イシガニは体を半分に切って、沸騰したお湯のなかへ。ぐつぐつと煮えたら味噌を入れて卵黄を投入。仕上げにネギをちらしたら完成です。
主催者のほうでは、塩麹を使ったマイナー魚の空揚げが調理されました。ウロコやエラ、内臓を取り除いた魚を一口大に切り、塩麹につけて軽くもみます。キッチンペーパーで塩麹をぬぐったら、片栗粉をうすくまぶし油で揚げていきます。この他にも、水にもどしてしょうゆ、酒で煮込み一晩おいたヒジキを混ぜた、ヒジキごはんもスタッフのほうで用意されました。
魚肉たっぷりのかまぼこを味わう
講座が始まって1時間半ちかく。お昼頃になると、それぞれの厨房に分かれたグループでは料理が次々と完成し、食事の時間へと移ります。今回の調理で扱った、聞きなれない名前の魚たち。食べるのは初めてという参加者もきっと多かったはずです。どんな味がするのか、お腹を減らした記者も楽しみにしながら「いただきます」と手をあわせ、さっそくお皿へとはしをのばしました。
まず口へと入れたのは、かまぼこ。見た目はちょっとでこぼこしていますが、魚肉のたっぷりつまった手づくりの味わいは、噛むたびにぎゅっとうま味があふれでて、とってもぜいたく。市販されているものと比べると、パサパサした感じや塩気の足りなさがちょっと気になりましたが、もっちりとした歯ごたえはボリューム感があって、しょうゆやワサビをつけていただくと、あっという間になくなってしまいました。参加した全員が一人ひとつずつ、手間をかけてつくったのですから、味わいもまた格別でしょう。
煮魚はというと、どの魚の身もホクホクとしたやわらかさで、クセのない食感がたまらなく、よくしみこんだ甘辛い味付けが食欲をさらにかきたてます。これはどの魚か、他の方と確かめながら味わうと、会話もさらに弾みます。入っているヒジキの大きさにびっくりした、ヒジキごはん。太いヒジキの食感と独特の香りを堪能することができ、こちらも大満足。一口すするたびにホッとするイシガニの味噌汁は、ダシがよくきいていて、うま味が体中にしみわたるようです。
参加者のそれぞれのテーブルでは、食事を楽しみながら、一つひとつの料理の出来ばえや調理した感想、扱った魚などについて交わす、いろんな会話があちこちから聞こえてきました。
底びき網はやさしい漁業
食事の後、講師の日比野さんが愛知で盛んな底びき網漁業、地元の漁港にあがる主要な魚、水産試験場が行っている研究などについて話題を提供しました。
愛知は底びき網が全国でもとても盛んな県で、豊浜(南知多町)、片名(同)、一色(西尾市)などが産地として有名です。底びき網による漁獲金額は全国第2位でトップクラス。日比野さんは「愛知が水産県」であることを強調します。底びき網によって、伊勢湾の内外で漁獲される魚の種類は、確認されているものだけで200以上あり、この漁業が「生物多様性の恩恵を受けて」行われていることを説明。特定の種類に偏らず、季節によってバランスよく獲る点を底びき網の特長にあげ、生態系にもやさしい漁業であることを訴えました。
また、地元の豊浜であがる主要な魚として、シャコ、ガザミ、スズキ、サルエビ、マダコ、マアナゴをあげ、「ぜひ食べてください」とピーアール。水産試験場が産地市場で行っている漁獲実態の把握、獲れた魚の体長測定やサンプル採取などについても説明し、底びき網で獲れるめずらしい種類の魚を数多くの写真で紹介。なかには図鑑を調べても名前のわからないような魚があがることもあり、「思わぬ発見がある」と調査の魅力を語り、参加者の関心を集めました。
日比野さんは底びき網について、大量生産・大量消費にあった商品しか扱われない現在の流通のなかで、獲れた魚介類の多くが利用されておらず、「未利用ではなく非利用」になっている問題を指摘。底びき網で獲れたいろんな魚を一般の人も購入できる、県内の産直市場をいくつか紹介しながら、「地魚が買えるところにもっと足を運んで」と呼びかけ、地元で獲れたさまざまな魚を調理して味わうことの大切さを参加者に伝えました。(新美貴資)