里山川海を歩く ライター新美の活動記録

名古屋を拠点に水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

【新美貴資の「めぐる。(123)」】小さな宇宙に驚く 川の生き物を観察して

〈『日本養殖新聞』2022年9月15日号寄稿〉

以前にミジンコを採取し、観察したことを書いた。普段の私たちが目にすることのない、人間とはスケールの異なる世界への興味が尽きない。

残暑の厳しい昼下がり、重いペダルをこいで、町の近くを流れる香流川(かなれがわ)に向かった。流路がわずか十数キロの小さなこの川は、両岸の大部分がコンクリートで固められ、排水路のような単調な流れが連続する、どこでも見られるような都市河川である。

その中流域に、周辺からの排水が流れ込む、流速のゆるやかな浅い所があり、生き物を観察する絶好のポイントとなっている。ここから小さな生き物たちの世界をそっとのぞいてみよう。そして、この川のどこかにきっといるはずのウナギについて想像したいと思った。

目的の場所に着いた。川に沿って走る道路の下にぽっかりと口を開いた暗渠。そこから水がこんこんと現れ、10メートルくらいの幅がある河原を蛇行しながら下り、本流に注いでいる。こんなに短い距離の間にも、早瀬やよどみによる流れの緩急があり、水深もくるぶしくらいから腰がつかりそうな所まである。

この小さな水域に、どんな生き物が暮らしているのだろう。わくわくしながらひんやりした水の中に足を踏み入れ、岸辺を覆う草の下に網を伸ばしてみた。引き寄せた網の中で何かが動いている。初めて見るコオイムシだ。さらに進むと、突然の来訪者に驚いたオタマジャクシが慌てて泳ぎ回る。足もとでは、トンボの幼虫のヤゴが、気配を消すようにじっと身構えていた。

川底から、握りこぶしくらいの石を拾い上げて観察してみた。表面に濃緑な藻のようなものがびっしりと生えて、触るとヌルヌルしている。裏側には、カゲロウの幼虫、赤や黒のヒルらしきものが付着していた。殻の透き通った巻貝の赤ちゃん、海にいるヒザラガイのような小判の形をした不思議な生物も見つけた。

川底の石には、日の光を受けて藻が生える。石と石の隙間には、落ち葉や生き物の死骸などが堆積する。水の中で暮らす小さな生き物にとって、川底に眠るたくさんの石は、餌を恵んでくれるだけでなく、天敵から隠れ、流されないよう身を守ってくれる、ゆりかごのような存在なのだろう。

水の中に生きているのは魚だけではない。昆虫、貝、植物、微生物など大小の様々な姿かたちをした生き物が無数に存在している。それらが、陸域で暮らす者も含めて、食べたり食べられたり、利用したり依存されたりする多様な関係のなかで共存し、世代交代を繰り返している。一つひとつの個体が、他者と複雑に絡み合い、一定の調和の下に生態系が成されているのだ。

この日は、他にもカエルやアメンボの仲間、カワニナアメリカザリガニなどを確認した。私が時々訪れるこの場所は、たくさんの惑星からなる小さな宇宙なのだ。こうした環境が、食物連鎖の上位にいるウナギを支えている。多くの生き物の姿を目の当たりし、この川のどこかにいるはずのウナギを思い、たくましく生きている様子を頭の中で描いた。

初めてみたコオイムシ。体長は2センチくらいあった