里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(1)」〉風土がうんだ伝統の味を守る 川魚料理「魚勝」店主 佐藤勝敏さん

〈『日本養殖新聞』2012年6月15日号掲載、2020年4月13日加筆修正〉

木曽と長良の2つの河川にはさまれた水郷地帯にある岐阜県羽島市。ここで100年以上にわたり営みを続ける川魚料理「魚勝」がある。

「天然のウナギは味も香りも脂も違う」。店主の佐藤勝敏さん(70)は太い声で笑顔をみせる。

伊勢湾奥にそそぐ木曽、長良、揖斐の「木曽三川」が育む天然のウナギやナマズ、川の王様といわれるサツキマスやアユなど、佐藤さんは半世紀を超えて扱ってきた。

現在ある木曽川の堤内に店を移して40年ほどになるが、それまでは堤外の河川敷に木造の簡素な建物をおき、祖父の代から地元で獲れる川魚のほか日用・衣料品まで、手広く商いをひらいていた。

かつての思い出を鮮明に記憶する佐藤さんは、子どもの頃から木曽川を遊び場にし、魚に触れながら成長した。大雨時には、流木をのみこんだ濁流が広い河川敷をうめ、堤を越えて民家や商店を侵す水害にも何度となく見舞われた。

「堤防から手が洗える」というほど増水した緊迫の場面も、佐藤さんにとっては懐かしい出来事のよう。そこには、あり余るほどの恩恵をめぐんでくれた川への深い想いがあり、自然がもたらす災いを泰然として受け止める強靭さが備わっている。

長年にわたり「木曽三川」を見守り続けてきた佐藤さん。深刻だった生活排水などによる水質の汚れは、だいぶ改善されてきたとはいうが、木曽川下流にある堰の頭首工や長良川河口堰の建設によって、川と海との往来を閉ざされたサツキマスはその多くが姿を消し、天然のウナギも激減した。

いま店で扱うウナギのほとんどは養殖ものだが、「適度に歯ごたえがあって香ばしい」という佐藤さんの天然ものへのこだわりは強い。

「天然ウナギがおいしいのは、身のやわらかい6月から8月頃まで」。秋になって水温が下がってくるとエサを食べなくなり、身が細ってしまうという。木曽、長良、揖斐の三川には、それぞれ水質や水温に特徴があり、「魚の性質(たち)がちょっと違う」。なかでも「魚の宝庫」だったという長良川には、「頭の小さい口ぼそのいいウナギがいる。顔を見ればどこの川のものかだいたいわかる」。

「魚勝」でのウナギの蒲焼きは、東海地方に共通する、腹開きにして串をうつ直焼きだ。「秘伝もなにもない。ウナギの脂が入ってできていく」という、先代から継ぎ足して使うタレにつけ、炭火でじっくりと焼き上げていく。

かつてないシラスウナギの大不漁。高騰する仕入れ価格に、がまんの経営は苦しさを増すばかり。同業の店や仕入先は悲鳴をあげる。それでも外はぱりっとして中はふっくら、独特の甘いタレで味付けされた「魚勝」の伝統の味を求めて、県内はもちろん愛知や三重、遠くは京都からも訪れる客足は絶えない。

そんな多くの期待を背に受けて、佐藤さんは日々ウナギをさばき、焼き続ける。 

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