里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】木曽三川の河口で育まれた桑名のハマグリを味わう!第37回「味わって知る わたしたちの海」

〈『DoChubu』2010年8月5日更新、2020年4月20日加筆修正〉

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木曽三川の河口でとれたハマグリ。プリプリの身にはうま味がいっぱいつまっています

なごや環境大学共育講座「味わって知る 私たちの海」(主催:伊勢・三河湾流域ネットワーク、山崎川グリーンマップ)の今年度(2010年度)第3回目が2010年7月8日に開かれました。今回はいつもの会場である名古屋市内から場所をかえて、ハマグリの産地として有名な三重県桑名市の赤須賀漁業協同組合を訪問しました。

講座には一般から約30人が参加。漁協が長年にわたって行っているハマグリの資源回復への取り組みについて話をうかがい、放流する稚貝を育てる種苗生産施設などを見学しました。昼食は漁協の事務所が入っている「はまぐりプラザ」の食堂で、「焼きハマグリ」などの料理をいただき、午後からは長良川河口堰を見学。伊勢湾に恵みをもたらしている木曽三川の河口の環境について理解を深めました。

ハマグリの復活に取り組んできた赤須賀漁協

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ハマグリやシジミをとる船がならぶ赤須賀の漁港

午前9時に参加者を乗せたバスは名古屋を出発し、桑名市内の赤須賀漁協へと向かいました。1時間ほどで揖斐川の河口沿いにある漁協に到着。すぐ目の前の港にはたくさんの漁船がならび、豊富な水量をたたえた揖斐川、さらにその奥を長良川が悠々と流れていました。

木曽、長良、揖斐川の3つの川の河口は、淡水と海水が混じりあうところ。また底が遠浅な砂地であることから貝の成育にとてもあった環境で、昔からハマグリやシジミなどをとる漁が盛んです。1960年代半ばから70年代半ばぐらいまで、毎年2000~3000トンとれていたハマグリですが、その後は干拓などによる埋め立てで生息する干潟が失われてしまい、95年には過去最低となる0.8トンまで激減。絶滅の危機が心配されました。

漁協では、ハマグリをなんとか復活させようと、長年にわたって資源の回復に取り組んできました。

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「はまぐりプラザ」内にある「漁業交流センター」展示室で、 赤須賀の漁業やハマグリの種苗生産について説明する組合長の秋田清音さん(一番右)

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(左)今年(2010年)5月にオープンした「はまぐりプラザ」。 漁業交流センターのほか、食堂や漁協の事務所があります (右)ハマグリを獲る漁具として昔使われていた「マキカゴ」も展示されています

参加者一行は、漁港のすぐ前にある「はまぐりプラザ」へ。今年(2010年)5月にオープンした「はまぐりプラザ」には、漁業交流センターがあり、地元の漁業やハマグリの種苗生産を紹介するパネル、むかし使われていた漁具などが展示されています。センターのなかを案内してくれた漁協の組合長・秋田清音さんの説明に、参加者は熱心に耳を傾けていました。

一時は絶滅の危機に瀕した桑名のハマグリ。そのハマグリの復活に向けて、親貝の人工授精から卵を採取して稚貝を生産する技術を確立しようと漁協内に勉強会がつくられたのが1975年のこと。秋田さんは先頭にたって研究開発に取り組み、いまでは毎年約100万個の種苗を生産して、木曽三川の河口に放流しています。

「日本中の先生方に教えを願って、25年かけて種苗生産の技術を確立しました」と話す秋田さん。長年の努力が実を結んで、いまでは年間150トンものハマグリがとれるまでに資源は回復しました。

0.065ミリのハマグリの幼生

漁業交流センターを見学した一行はバスに乗って、すこし離れたところにあるハマグリの種苗を生産する施設へと移動しました。施設のなかに入ると、海水をたたえた大きな水槽がいくつも並んでいます。一見すると何もいないようですが、ライトで照らされた水面に顔を近づけてじっと覗き込むと、たくさんの小さな白い粒のようなものが漂っています。これが卵からふ化したばかりのハマグリの幼生だそうで、その大きさはなんと約0.065ミリ。水槽や顕微鏡で幼生を観察した参加者からは、驚きの声があがっていました。

この施設では、親貝から卵を採取して、放流するサイズの5ミリから1センチぐらいまで育てています。一年で採取できる卵は約1000万個で、このうち放流サイズまで育つのは150万個ほど。幼生はとてもデリケートで、海水の温度や餌の量など、その時の状態にあわせて対応しなければならず、管理にはとても気を使うそうです。生まれたばかりの幼生は放流サイズに育つ11月に漁場へと放たれます。収穫できるサイズに育つまでには3、4年かかるそうです。

食堂で「焼きハマグリ」をいただく

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食べだしたらとまらない「焼きはまぐり」

種苗生産施設の見学を終えると、時間はちょうどお腹の減るお昼頃。昼食は「はまぐりプラザ」内にある食堂でいただきました。メニューは、桑名でとれた「焼きはまぐり」「はまぐり磯部揚げ」のほか、「アサリの炊き込みごはん」「シジミの味噌汁」「デザート」です。

桑名の名物といえばやっぱり「焼きはまぐり」。「いただきます」と同時に早速、アルミホイルに包まれたハマグリを網のうえにのせ、火にかけていきます。しばらくして、ブクブクとあぶくがたち始めたら、包みを開くちょうどいい頃合。開くと同時に貝がパカっと勢いよく開いて、おいしそうな身が顔をだします。

アツアツのやわらかなハマグリをほうばってかみ締めると、貝のうま味が口のなかいっぱいに広がりました。桑名だからこそいただくことができる、貝づくしの贅沢なメニュー。参加者のみなさんも大満足の様子でした。

長良川河口堰を見学

昼食後は、漁港からさらに河口へと下ったところにある、長良川河口堰へとバスで移動。水資源機構長良川河口堰管理所の担当者から堰について説明を聞き、実際に堰をわたって上から魚道を見学しました。また魚道観察室では、ガラス越しに魚道をのぼる魚を確認。その仕組みや見ることができる魚の種類などがパネルで展示されており、参加者は遡上の効果などについて、担当者に熱心に質問していました。

伊勢湾のもっとも奥に位置する木曽三川の河口。淡水と海水が混じりあい、遠浅な砂地が続くこの場所でも、漁は盛んに行われています。一時期の絶滅の危機を脱して、復活を遂げた桑名のハマグリ。まわりの環境が大きく変わってしまったなかでも、ハマグリを守り育てる取り組みは地元の漁業者の手によっていまも続けられています。

赤須賀漁協を訪れて強く感じたのは、ハマグリのたくさん獲れる豊かな海を守り、次の世代につなげていきたいという思いです。現場を実際に歩いて見る。さらにそこで話をうかがうことは、学ぶうえでなによりも大切なこと。今回の講座を取材させていただいて改めてそのことを実感し、木曽三川の恵みを受けて多様な漁業が行われている伊勢湾への関心がさらに膨らみました。(新美貴資)

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