〈『DoChubu』2009年12月7日更新、2020年4月20日加筆修正〉
「地産地消レシピコーナー」で、木曽川流域の食材(11月号:木祖村の御嶽白菜、12月号:木曽町のすんき)を使ったレシピを考案し、作り方のポイントを動画で紹介してくださっている名古屋調理師専門学校の向山登先生。
生徒指導に情熱をそそぐ先生は、食育や地産地消などのイベントにも積極的に参加し、食の大切さを多くの人に伝えています。日々の活動からいまの「食」について感じていることや「地産地消レシピ」で伝えたいこと、これからの抱負などをお聞きしました。
━━調理を教えるという仕事の魅力とは?
「名調(名古屋調理師専門学校)でフランス料理を教えるようになって、今年で15年目になりました。わたしもこの学校の出身で、卒業してから10年間は名古屋市内のホテルで働いていたのです。ホテル時代は料理人としてひたすら腕を磨く、とても充実した日々でした。でも、いまの仕事について、生徒と毎日接しているうちに、教えることの楽しさ、すばらしさに気付かされました。人にものを教えるということは、自分が勉強するということ。生徒と一緒で毎日が勉強です。これからも、やりがいのあるこの仕事を続けていきたいと思っています。
生徒にとって学校は、将来の仕事を学ぶ大切な場所です。「料理をつくる人間は、口のなかにいれるものをつくっている」という意識を、授業や実習を通してしっかりもってほしいと思っています。先月の「地産地消レシピ」で取り上げた木祖村の白菜もそうですが、命ある食材をつかって調理しているという自覚を、私たちは常にもっていなければなりません。料理の知識だけではなく、その奥にあるものまで学ぶ。しっかり挨拶のできるような人間を育成することも学校では大切なことですし、食事をとる時に「いただきます」という言葉が自然に口からでるようになってほしいですね。
最近、頭に浮かぶのが「便利」という言葉です。わたしが生まれたのは、ちょうど東京オリンピックが開催された年で、高度成長期のまっただ中でした。経済だけでなく、環境も大きく変わりました。国内の移動も飛行機や新幹線であっという間ですし、いまはデジタルカメラや携帯電話などもあって、あらゆるものが便利に使えるようになりました。
そのなかで、食事も電子レンジで温めたり、お湯を注ぐだけだったり。食べることまでが便利になってしまいましたよね。わたしが子どもだった頃は、時間がかかっても調理して、家族で食べていたものです。いまはスーパーに行けば、出来合いの惣菜が買えますし、みなさん普通に利用しています。
家庭で調理する時間だけでなく、家族で食卓を囲む時間もなくなってしまっているのでは?社会情勢が変わって、核家族が増えたことなども背景にあるのでしょうが、食事もふくめてすべてが便利になりすぎてしまったのではと感じています。
人とのつながりを大切に、地産地消にも貢献したい
──地産地消への関心も以前からあったそうですね。
その土地でとれたものをいただくことは、とても重要なことだと思っています。10月に開かれた愛知県豊田市小原地区(旧小原村)の「小原地域文化まつり」では、生徒たちが考えたイノシシのメニュー「タンドリーイノシシ」「イノシシのパジョン(チジミ)」「猪コロッケ」などを提供してきました。私も参加しましたが、昼過ぎにはすべてのメニューが売り切れで、とても好評でしたよ。
小原地区では、イノシシによる農作物への被害が増えていることから、このイノシシを食材として、新たなレシピがつくれないかと学校に相談があったのです。生徒が中心となり、わたしもアドバイスしながら、小原の方々とも一緒になってレシピの開発に取り組みました。こうした人とのつながりを通して、これからも地産地消に貢献できればと思っています。
──これからの抱負を!
いつも心がけているのは、食事を残さないで食べるということ。また、残さず食べてもらう料理をつくることも大切なことです。趣味でやっている書道と同じで、調理も平常心を保つことがとても重要です。怒りながらでは、けっしておいしい料理はつくれません。
旅が好きで、時間があれば家族で全国各地へ出かけていますね。行った先では、その土地の名物や特産を好んで食べ歩いています。さまざまな土地でつくられている食材や料理のことを知ることはとても大切ですし、おいしい料理をつくることにもつながると思います。
そして、その食材のもつ良さを生かし、最後に味付けすることが、調理人としてとても重要な仕事になってくるのです。料理と同じで、人にも人間味という味がありますよね。その人がもつ感性だったり、人柄だったり。わたしも味のある人間になりたい。いろんな人と出会って話す。そういう機会を増やしながら、これからもお皿のうえでたくさんの味を表現していきたいです。料理をつくるということは、人が生きていることを、感じることのできるひとつではないでしょうか。
この「地産地消レシピ」のコーナーでは、地元でとれる食材を使った簡単でおいしい料理をみなさんに伝えていければと思っています。多くの方に見ていただいて、ぜひみなさんのご家庭でつくってもらえたらうれしいです。(聞き手・新美貴資)