里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(10)」〉郷土への思いを歌にこめる 「一色のうなちゃん音頭」を製作した津軽三味線奏者 岩瀬輝夫さん

 〈『日本養殖新聞』2013年3月15日号掲載、2020年4月13日加筆修正〉

「うなちゃんのパワーは魚界一 一色の名物ハイハイ大提灯 ソレソレソレ・ググット・ググット ハイハイハイハイ持ち上げる~!」。

軽快なリズムと親しみやすいメロディにのって、まっすぐ伸びやかに歌いあげる少女の声。愛知県西尾市一色町のウナギをテーマにしたひょうきんな歌詞。聞いているうちになんだか愉快な心地になって、自然と体が動いてしまう、そんな活力にみちた郷土の応援歌だ。

今年1月末に完成した「一色のうなちゃん音頭」。市内で活動する津軽三味線奏者の岩瀬輝夫さん(66)が作詞・作曲した。民謡の歌い手でもある岩瀬さんは、これまでにも「新西尾市音頭」や市内の名所である「見影山の穴弘法」といった西尾にちなんだ曲を製作し、地元を盛り上げてきた。

新たにつくる3曲目は「一色が元気で明るくなるようなものに」と考え、町の特産であるウナギに着目。シラスウナギの不漁で苦境にあえぐ生産者を励まそうと、昨年10月から曲づくりに取り組んだ。市内で活躍する女性舞踊家が、子どもたちがおどるダンスの振り付けを担当し、オーディションで選ばれた岡崎市の小学5年女子が歌を吹き込みCDとDVDができあがった。

小学校低学年の子どもたちの姿を頭に浮かべ、納得のいくまでに2ヶ月かかったというメロディに「町を活気づけたい」との思いを込めて8番まで歌詞をつけた。岩瀬さんの郷土への深い愛着が、心血をそそいだ新たな歌となって結実した。

西尾で生まれ育った岩瀬さん。三河地域に本店をもつ銀行を定年まで勤めた後、4年前に高橋流・津軽三味線の「傳輝(でんてる)会」を立ち上げる。会主として指導にたずさわるかたわら、生徒とともに病院や福祉施設を毎月慰問。「少しでも喜んでもらえたら」と、民謡や童謡、アニメの曲などを演奏し、地元での音楽活動に精をだす。

早朝から深夜まで外回りに明け暮れた行員時代の生活は、苛烈を極めた。毎月のしかかる厳しい営業ノルマに耐えきれず、「倒れそうになったことがいくらでもある」と笑いながら振り返る。それでも働き続けることができたのは、苦しいときに不思議とあらわれ、助けてくれる客の存在があったから。地域に密着した営業活動を行うなかで、「お客から教えられることは多かった。生きる知恵をこと細かに学んだ」と感謝の念を忘れない。地元の人々の役に立たちたいという、行員時代につちかった精神は、その後の歩みのなかでしっかりと脈打つ。

初めて耳にした、プロの民謡歌手の心を揺さぶる声音に感動し、習い始めたのは24歳のとき。「人々の生活がにじみでる民謡には流行りすたりがない。喜怒哀楽のこもった生き方が歌われていて魅力を感じた」。その7年後には津軽三味線を弾くようになり、修練をかさねる日々がいまも続く。

つねに前向きで行動力にあふれる岩瀬さん。「これだと思ったら躊躇なく一歩を踏みだすんです」とにっこり笑みを浮かべる。温暖な気候にめぐまれ、数々の神社仏閣や多様な伝統文化が息づく「三河の小京都」から、元気を届ける歌をこれからもつくり続ける。

CD(1枚700円<税込み>)、DVD(1枚1000円<同>)ともに販売中。動画サイトYouTubeでも「うなちゃん音頭」で検索して視聴することができる。 

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