里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(90)」〉現代のため池にもウナギはいる  愛知県日進市・岩藤新池の池殺生

〈『日本養殖新聞』2019年12月15日号掲載、2020年4月18日加筆修正〉

11月下旬、再び愛知県日進市の岩藤新池を訪れた。ため池のほとりで、会う約束を交わしていた加藤英俊さん(74歳)が笑顔で迎えてくれた。この地域の自然を守る「水源の里の会」の代表を務める加藤さんは、岩藤新池のある岩藤町で生まれ、ずっと暮らしてきた。

岩藤新池に、今もウナギはいるのかという疑問を解きたくて、かつて行われていた、池の水を抜いた時に魚を捕る「池殺生(いけせっしょう)」について話をうかがった。

このあたりでは、魚を捕ることを「セッショウ」と呼び、職業として行う以外の漁のことを主に指した。人びとは、ため池の水質を保全するために泥を抜く「池干し」の際に、魚を捕ってタンパク源にした。昔は、多くのため池で池殺生が行われていた。

岩藤町のある日進市の東部は、尾張地方の東側に広がる東部丘陵に含まれる。このあたりには、日進から名古屋市を流れ海へと注ぐ、天白川水系の源流域となっており、いくつもの湿地がある。豊かな湧水に恵まれた日進市内の湿地群には、多くの動植物が生息しており、加藤さんは「昔の里山が守られている」と話す。

農業用のため池として、150年以上前の江戸時代中期に作られたのではないかと加藤さんが推測する岩藤新池は、今日までずっと村落で管理されてきた。池は、もっとも大きい「下池」の他、隣接する「上池」と「空池」の三つからなる。

2009年8月、岩藤新池で池殺生が実施された。耐震補強のための工事が計画され、池の水を抜くことになる。だったら子どもたちが楽しめる催しを開こうと、この池を管理する岩藤区が企画し、市も協力した。

加藤さんによると、池で殺生が行われたのは約20年ぶり。当日は約100人の子どもが参加し、水を抜いた池に入って魚を捕った。

この時に捕獲した生き物の記録を見せてもらう。外来生物ブラックバスブルーギルアメリカザリガニの他、カワムツ、オイカワ、ドジョウなど13の種が記されており、そのなかにウナギもあった。

何匹のウナギが捕れたのか。1匹か2匹くらいだったのではと加藤さんは記憶している。

岩藤新池のすぐ横を流れる岩藤川は、池の奥地に広がる山林を源流にしている。源流域からの水は、池にも流れ込んでいるという。池の周辺は湿地で、ぬかるむ所が広がっている。岩藤川は、池のすぐ南側を流れているが、北側にも本流と合流すると見られる別の小さな水の流れがあり、下池の排水口とつながっている。

見つかったウナギは、生まれた太平洋から天白川の河口に達し、そこから上り続けて、この池にたどり着いたのではないか。池と海は、水の流れでつながっている。強靭な生命力と特異な遡上力を持つウナギであれば、可能性はある。

一方で、地元のため池に詳しい男性からは、この時の池殺生で捕れたウナギは、遡上したものではなく、人の手によって放流されたものではないかという話を聞いた。川で捕獲した小さなウナギを池に放し、大きく育ってから池殺生で捕ることが、昔はよくあった。

この池のウナギがどこからやって来たのか。謎は深まるばかりだが、現代のため池にもウナギがいたことはわかった。この一帯が、これからも水源の里であり続ければ、希少な生き物たちの棲みかは守られる。岩藤川を上り、この池で暮らすウナギの姿を想像し、またいつか池殺生が行われる、その時を待ちたい。 

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