里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

〈新美貴資の「めぐる。(91)」〉ウナギの魅力とは 日本人と関わりの深い生き物

〈『日本養殖新聞』2020年1月25日号掲載、2020年4月18日加筆修正〉

取材でウナギと関わるようになって10年近くになる。本紙で記事を書くようになってからであるが、年を経るごとに、この魚にますます惹かれている。

今回は、私が思うウナギの魅力について書いてみたい。もちろんウナギそのものへの興味は尽きないのだが、取材を重ねていくうちに、この生き物を取り巻く世界の広さを知った。

ウナギは自然、風土、歴史、文化だけでなく、現代社会のさまざまな事象ともつながっている。日本人と縁のあるこの魚から、人の暮らしや物の流れ、社会や経済までが見えてくる。

なぜウナギに魅了されるのか。①謎の多い生態②日本を代表する食文化③一途な職人の世界④日本人との深い関わり―があると思う。

海と川を行き来する生態は、多くの謎に包まれている。太平洋で生まれ、海流にのって東アジアの沿岸に漂着し、さらに河川を遡上する。その行動には、種を残すため、太古より地球環境の変化に順応し、進化してきた生物の叡智が備わっている。

さまざまな能力や特徴をもつウナギへの興味は、新たな発見が生まれるたびに大きくなる。

では現代のウナギは、どのような内水にどれくらい生息しているのだろうか。1960年代前半頃までは、川や池などどこにでもいて捕れたと聞く。名古屋および周辺地域の水辺を調べてみたい。

ウナギの資源問題についても考えてみたい。資源が減った原因として、乱獲、河川・河口環境の悪化、海洋環境の変化などがあげられている。最近では、農薬の使用による影響を指摘する研究結果も発表された。

乱獲は、なくさなければならない大きな問題であるが、資源の減少した理由はそれだけではない。川を歩いてみるとよくわかる。どこの川を見ても、ダムや堰ばかり。護岸はコンクリートで固められ、水を排出するためだけの水路と化している。これでは生き物は暮らせない。

今起こっているさまざまな海の異変にも、陸の環境悪化が影響しているはずである。そう確信するようになってから、川の自然環境をより意識するようになった。

ニホンウナギの漁獲量は、1970年あたりから減少し始める。国土の開発が急速に進展した、高度成長が終わる少し前の頃からである。

いくら獲る量を抑えても、育つところがなければ資源は回復しない。地球そのものが起こす変動には抗えないが、人間が壊したものは、人間の手によって戻すしかない。私たちには、環境を直視し、自然の声に耳を傾ける謙虚さが求められている。

ウナギの蒲焼きは、日本を代表する食文化の一つである。豊かな魚食のなかでも、一種の魚を調理する商いで、ここまで親しまれ成り立ってきたものは他にない。

作る工程は、シンプルであるがゆえに無駄がなく、奥が深い。多くの人が汗を流し、捕って育て選びぬいた食材を受け、客に提供する料理に仕上げる。ウナギと日々向き合い、最上を目指す職人の世界をもっと近くで感じたい。

専門店で腕を振るう職人も、他の人びとによって支えられている。それは、食材としてのウナギだけではない。しょうゆも炭も包丁も器も。一つの技は、また別の職人たちによって生かされている。

日本人にとって、ウナギは大昔から特別な生き物だったのかもしれない。東海地方だけを見ても信仰、伝説、地名、習俗などから関わりの深さがうかがえる。

この魚のことを理解すれば、もっといろいろなことが見えてくるだろう。そして、未来のなにかに活かせるかもしれない。今年もウナギを探し、取り巻く世界を訪ねて歩きたい。 

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