里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】鈴鹿で人気の鮮魚直売店「魚魚鈴」を見学!第46回「味わって知る わたしたちの海」

〈『DoChubu』2011年7月31日更新、2020年4月21日加筆修正〉

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前浜産の魚がたくさんならぶ鮮魚直売店「魚魚鈴」

伊勢・三河湾とその流域でとれる旬の魚介類を調理して味わう、なごや環境大学の人気の講座「味わって知る わたしたちの海」(主催:伊勢・三河湾流域ネットワーク、山崎川グリーンマップ)の今年度(2011年)第3回目が2011年7月7日(木)に開かれました。

今回は、名古屋からバスに乗って三重県鈴鹿市の白子漁港へ。記者が案内役をつとめ、約25名の参加者が鈴鹿市漁協の運営する鮮魚直売所「魚魚鈴(ととりん)」を見学。近くの白子漁港を見て歩いた後は、漁港に隣接する三重県水産研究所鈴鹿研究室を訪れ、伊勢湾で獲れる魚や行われている漁業、海の環境について研究員から話をうかがいました。昼食は市内にあるアナゴ料理の専門店「魚長」で、アナゴの丼ぶりや刺身をいただきました。

前浜産の新鮮な魚がならぶ魚魚鈴

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店内は獲れたての新鮮な魚がたくさん。 「煮付け」「刺身OK」といった表示もあり、店員さんがおいしい食べ方を教えてくれます

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(左)たくさん盛られた前浜産のカタクチイワシは1皿120円。(右)同じく前浜産のトリガイは一皿300円。刺身でいただくことができます(価格は取材当時のものです)

この日は朝から雨が降るあいにくの天気でしたが、参加者のみなさんを乗せたバスは9時に名古屋を出発し、鈴鹿市の白子漁港へ。最初に訪れたのは、漁港前にある鮮魚直売店の魚魚鈴。鈴鹿市漁協が2年前にリニューアルして開いたこのお店。目の前の漁港で揚がった、獲れたばかりの新鮮な魚が格安な値段で買えることから、連日多くの客でにぎわっています。

11時前に魚魚鈴に到着し、さっそくお店のなかへと入りました。連日9時半の開店と同時に、多くの客が押し寄せて買い物をしていくことから、すでに多くの魚が売れてしまっていましたが、それでも店内にはまだたくさんの鮮魚や水産加工品などがならんでいました。カゴを手にして店内の魚を見てまわる参加者のみなさん。どの魚も目は澄んで体はピカピカ。見るからに新鮮そのものです。店員さんと対話をしながら、前浜で揚がった魚をたくさん買い求めていました。

イワシ、カタクチイワシ、マサバ、マアジ、サワラ、ゼンメ、モンゴウイカ、アカイカスルメイカ、アカシャエビ、トリガイなど。豊富な魚介類がならんでいるのも魚魚鈴の大きな魅力。いろんな種類のおいしそうな魚を眺め、今日の献立をどうしようかと考えながら、買い物を楽しむこともできます。同じ魚でも、愛知と三重では呼び名が異なるものもあったり。そんな違いを見つけるのも面白いかもしれません。

地産地消と魚食普及に力を入れている魚魚鈴では、店員さんが旬の魚のおいしい食べ方も教えてくれます。漁獲されてもサイズが小さかったり、一般ではあまり食べられていないため、これまで流通にのらず未利用とされていた魚も販売。資源の有効利用にも取り組んでいます。

魚を食べると伊勢湾がきれいになる

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伊勢湾で獲れる魚や海の環境について説明する三重水産研究所鈴鹿研究室室長の藤原正嗣さん

魚魚鈴を見学した後は、目の前の白子漁港を歩きました。ちょうどイワシが水揚げされていると聞いて駆けつけたのですが、残念ながら作業は終了。水揚げの現場を見ることはできませんでした。

その後は、漁港に隣接する三重県水産研究所鈴鹿研究室を訪問。室長の藤原正嗣さんから「地産地消と環境の浄化」についてお話をうかがいました。

マアナゴ、クルマエビ、シャコ、イカナゴ、マイワシ、アサリなど、多くの魚介類が獲れる伊勢湾。その伊勢湾ですが、三重県では昭和43年(1968年)に7万トン獲れていた魚が、平成15年(2003年)には3万トンにまで減少しています。

藤原さんは、安価な輸入水産物が増えた結果、漁業の経営が厳しくなり、就業者が減ったことを原因の一つにあげました。1890年からの伊勢湾の干潟と藻場の変遷も図で紹介しました。埋め立てによって湾内にあった干潟と藻場のほとんどが消失。干潟による海の浄化ができなくなり、藻場が果たしていた海の生き物の産卵・育成場としての機能も失われ、環境が大きく変わってしまっていることを指摘しました。

1個のアサリが1日に14リットルの海水をろ過し、植物プランクトンなどを食べることによって海がきれになっていること。干潟が1ヘクタール当たり約1万人分の生活排水を浄化する機能をもっていることなども説明しました。

私たちが出す生活排水などによって、海で窒素、リンが過剰に増えると、それを摂取するプランクトンが異常発生し、海水が赤茶色になる赤潮という現象が起きます。プランクトンの死骸は、海底に大量に堆積してヘドロ化し、バクテリアによって分解されますが、その過程では多くの酸素が使われます。海中の酸素が欠乏すると貧酸素水塊がうまれ、多くの魚や貝がへい死。漁業にも大きな被害を及ぼすのです。

海の汚れの原因となる生き物の死骸は、バクテリアによって分解され、赤潮の発生原因にもなる窒素、リンがつくられます。「漁獲して魚を海からとりあげると、海に溜まる過剰な栄養の減少につながる。魚を食べることは海をきれいにすること」と藤原さんは話します。伊勢湾の環境について、さまざまな視点から語る藤原さんのお話に、参加者のみなさんも熱心に耳を傾けていました。

アナゴの産地、伊勢若松で天丼を味わう

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魚長でいただいた穴子天丼。丼ぶりからはみでるアナゴの大きさに参加者のみなさんもびっくり

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もちっとした弾力のある歯ごたえがたまらないアナゴの刺身

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(左)魚長の代表取締役・赤須誠一さん。アナゴのおいしさや魅力について語ってくれました。(右)ボリュームたっぷりのアナゴの天丼と刺身に参加したみなさんも大満足

三重県水産研究所鈴鹿研究室を後にすると、時間はちょうどお昼過ぎ。続いて向かったのは、市内にあるアナゴ料理の専門店「魚長」。このお店で、昼食をいただきました。

いただいたメニューは、アナゴの天丼と刺身。天丼は、器からはみでるアナゴの大きさにまずびっくり。豪快にかぶりつくと、外はサクサクで中はふっくら。とてもやわらかなアナゴの身は、口のなかでとけるよう。初めて口にするアナゴの刺身は、ポン酢ともみじおろしで。クセのないさっぱりとした味で、もちっとした弾力がたまりませんでした。

江戸時代からたくさんアナゴが水揚げされていた鈴鹿の伊勢若松で、アナゴを使った料理を追求し続けている魚長代表取締役の赤須誠一さん。アナゴを使ったメニュー開発に熱心なお店では、寿司ネタだけでなく、天丼や刺身なども提供。焼いたり揚げたり。蒸しても煮てもよしで、「レパートリーは限りなく増えた」と話します。

以前から地産地消に熱心に取り組んでいる魚長。江戸時代、鈴鹿の港で回船の船頭として活躍し、ロシアに漂流して約9年半後に帰国したという、波乱の生涯を送った大黒屋光太夫をネーミングに取り入れた、「光太夫ばーがー」を考案。お店で販売しています。アナゴの骨を砕いたパウダーを加えた米粉パンで、伊勢湾産のコウナゴが入った野菜のかきあげを、自家製スパイシータルタルソースで味付けしてはさんだ、とてもユニークなバーガーです。赤須さんは、アナゴの魅力を歌にした「あなごの穴」というCDも制作。鈴鹿の特産であるアナゴをアピールし、地域の活性化にもつなげています。

そんな赤須さんが心配するのは、伊勢湾も含め全国的にアナゴの水揚げが減っていること。おいしいアナゴを安定して提供できるよう、伊勢湾で獲れたものを陸上養殖。全国の産地で水揚げされたアナゴも陸上輸送で入手し、素材にあった調理でおいしく味わえる料理を提供しています。

三重県鈴鹿市を訪れた今回の講座。魚魚鈴では、伊勢湾で獲れる魚介類の豊富さに触れ、三重県水産研究所鈴鹿研究室では、海の環境について学びました。おいしい海の幸を味わうことができた魚長では、アナゴを通して伊勢湾への関心をさらに深めることができました。見て聞いて、触って味わう。盛りだくさんの内容に参加者のみなさんも大満足のようでした。(新美貴資)

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