〈『DoChubu』2011年12月29日更新、2020年4月22日加筆修正〉
「食の大切さと人と人のコミュニケーションを柳橋中央市場で学ぶ!」をテーマに開かれている、なごや環境大学の人気の共育講座「日本人と魚」(主催:柳橋市場青年部食育応援隊)の第3回が2011年12月3日(土)、名古屋市中村区の同市場内で開かれました。
今回も参加者のみなさんは柳橋市場のなかを歩いて市場のにぎわいを体感。講座を主催する市場青年部食育応援隊の鈴木正明さんが構えるお店「魚彦」で、店頭にならぶ魚について説明を受けました。
このほか、鈴木さん、中部水産取締役部長でおさかなマイスターの神谷友成さんによる、市場で魚を買う時のコツや上手な保存の仕方などの講義も。最後は新鮮なスルメイカの皮むきを全員で体験。さばいた後は、刻んだ胴や足をキモと一緒に煮込んで味わいました。
活気の増す市場
年末もいよいよ近くなり、柳橋市場の活気は日に日に増しているようです。柳橋市場水産ビルの会議室に集合した参加者のみなさんは、さっそく早朝のにぎわいが続く市場のなかを見学しました。どのお店の前にも、それぞれに特色のある魚介類がずらっと並び、品を定める客と応対する店員とのやりとりがあちこちで見られます。
この日、鈴木さんのお店「魚友」にならんでいたのは、マダラ、サワラ、ハタハタ、アマダイ、ホウボウ、ウチムラサキ(オオアサリ)など。スーパーでは目にすることのない大きな魚もあって、参加者のみなさんは身をのりだすようにしてのぞきこみます。鈴木さんが店頭の魚について説明を始めると、旬の時期や産地、食べ方など、どんどん質問が寄せられます。
まわりのお店も対応はとっても気さく。マグロを扱う専門店で黙々と赤身に包丁をいれていた年輩の店員さんは、「これから年末にかけて人が増える。29、30日は忙しいよ」「一般の人も買える。安いよ」と威勢のよい声で話してくれました。
馴染みの店をもつことが大事
続いて魚講座にうつり、まずは鈴木さんが市場での魚屋の仕事、上手な買い物のコツなどについて説明しました。
柳橋市場では、店が開くのは午前2時から3時ごろで、営業は10時ぐらいまで。一日でもっとも混雑するのは、プロの飲食業者が仕入れにくる5時から7時ごろです。9時を過ぎると売り場の商品は減ってしまうため、一般客の買い物は7時から8時ぐらいまでがおすすめとのこと。
店も客も魚をとても大切に扱う市場では、「鮮度を落とさないようテキパキ行動する」ことが大切と話します。ほとんどの店では、片身や小分けにされた魚が売られ、下ごしらえなどの注文に応じてくれるところもあります。こうしたやりとりがスムーズにいくためにも、まずは馴染みの店をつくることを鈴木さんはポイントにあげました。
また、魚の良し悪しを見分ける大きな基準として、①目の色がきれい、②エラの色が鮮やか、③腹がしっかりしているーことの3つをあげました。魚の保存の仕方では、冷凍庫についてプロが使う超低温(マイナス50度ぐらい)の業務用と家庭用(マイナス18度ぐらい)の違いを説明。凍らせるための業務用に対して、解けないよう保存するための家庭用では品質の劣化が進むことから、短期間の保存として使うことをアドバイスしました。
神谷さんは、魚についてのさまざまなアンケート結果などから、年末によく売れる水産物について解説。30日まではブリやカニ、大晦日の31日になると出来合いの刺身の盛り合わせやマグロの売れ行きが増えていることを指摘。それを受けて、マグロとカニの解凍と保存の仕方をプロの知識と経験から、参加者にわかりやすく講義しました。解凍には、「自然解凍」と水をかける「流水解凍」の大きく2つがあり、「流水解凍」には真水か塩水か、冷たい水か温かい水か、などの違いがあります。
冷凍マグロのブロックについては、ビニールの袋に包んで人肌ぐらいのぬるま湯ですこし表面をとかします。まだ凍っている状態で切り分けて、食べる分は「自然解凍」し、
残った部分は冷蔵庫にいれて2、3日のうちに食べるのがベストなのだそうです。
冷凍のカニは水をかけず、バットなどで受け、そのまま冷蔵庫に入れて「自然解凍」します。冷凍のカニには、凍結後の保存中に水分が奪われないよう表面に水をかけて皮膜をつくる「グレース」という処理がほどこされており、解凍するととけてベタベタになってしまうため、バットなどでしっかり受けておくことが必要です。神谷さんから提供される数々の興味深い話題に参加者は熱心に聞きいっていました。
「お金を出していい食材を食べればそれで幸せかというとそうではない。みなさんそれぞれに財布の事情があり、そこのなかで賢く買い物をする」ことが大切と話す神谷さん。一年の幸せを祈ってくれる歳神様を家族がそろってお迎えする正月についても、門松や注連飾り、おとそなどの意味も含めてわかりやすく説明。家族が集う年末年始の機会を通して、「我々が培ってきた日本の伝統、我が家の家風を子どもたちに伝えるのはみなさんの仕事です」と参加者に呼びかけました。
初めてのイカの皮むき
続いては、鈴木さんが生のキハダマグロの大きなブロックを手にし、柵への切り落とし方を実演してくれました。ポイントは、ブロックの断面のスジに対して垂直に包丁をいれること。参加者は鈴木さんの巧みな包丁さばきに視線を集中。マグロの良し悪しをどう見極めるかといった話もあって、みなさん時おり大きくうなずきながら、ていねいな解説にじっと耳を傾けていました。
続いてはいよいよイカの皮むき体験です。用意されたのは、表面がつやつやで黒光りしている新鮮なスルメイカ。一般客の多くは、刺身用に処理したあとのキモをいらないといって捨ててしまうそうですが、「キモがミソ。おいしくて価値がある」と鈴木さんは話します。
スルメイカを手に取った鈴木さんは、あっという間に胴からキモのついた脚を引きはがします。さらに胴の先端に広がる「耳」の部分に指を入れ、つまんで上から下へと一気にひっぱり皮をはがします。タオルなどを使うと滑らず作業が楽で、「鮮度が良いほどきれいにむける」そうです。
神谷さんもイカの体の構造について、実際に手にとって説明。大人も子供も身を寄せあって近づき、もっとまじかで見ようと囲む輪がさらにせまくなります。
鈴木さんの手本を見て参加者も次々とスルメイカを手に取り、皮むきの体験がスタート。皮をむくのは記者も初めての体験です。胴から脚をズズズっとゆっくりはがすと、黄色がかった色のキモがドロンと現れます。簡単なように見えた皮むきですが、これがなかなか難しいのです。つまんでひっぱるとすぐに切れてしまい、なかなかスーっとはいきません。うんうん言いながら苦闘する時間がしばらく続きましたが、それでもキッチンペーパーで皮をしっかりとつかむと、ズルズルっとなんとかむくことができました。
参加者のみなさんもイカを手にする機会はあまりないようで、今回の体験は驚き発見の連続だったようです。記者も胴をはずしたり、耳を取ったり、なにかするたびに「おぉー!」「なんだこれ!」といった言葉が思わず口からでてしまいます。脚のほうはキモと切り分け、さらに目玉やコリコリした「くちばし」と呼ばれる部分もカットして取りのぞきます。
処理がすんだら、胴と脚は適当に刻んでキモも一緒にアルミホイルで包みます。加熱したホットプレートの上においてしばらく経つと、キモが程よくとろけておいしそうなにおいが立ち込めます。一口いただくと、独特のコクと甘みのあるキモがやわらかなイカの身とよくからんで抜群の味。酒のつまみにもよくあいそうです。自宅でも簡単にできるイカの調理。ぜひ味わっていただきたいおすすめの一品です。
今回も盛りだくさんな内容で終わったこの講座。たくさんの「見て」「触れて」「味わう」があり、参加者のみなさんも大いに満足した様子でした。
(新美貴資)