里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

【DoChubu掲載】〈山県市特集〉伊自良の恵みがつまったニューいじら湖荘の名物「わかさぎ丼」

〈『DoChubu』2011年12月30日更新、2020年4月22日加筆修正〉

f:id:takashi213:20200313170739p:plain

ニューいじら湖荘の「わかさぎ丼」。地元産のいろんな野菜のほか、特産の柿酢も使われています

山々に囲まれ豊かな自然が広がる岐阜県の山県(やまがた)市。同市の観光名所のひとつである伊自良(いじら)湖は、四季を通して自然のさまざまな表情が楽しめることから、多くの人々が訪れます。毎年10月からは、ワカサギ釣りのシーズンがスタート。静かな湖面にはたくさんのボートが浮かび、多くの釣り客が竿から糸をたれる光景が見られます。

そんな湖畔にあるニューいじら湖荘では、名物の「わかさぎ丼」など、ちょうどいまがおいしいワカサギを使った料理を味わうことができます。ワカサギを使った丼ぶりとは、いったいどんな味わいなのでしょう。地元産の食材を使った料理を提供し、地域の魅力を発信し続けているニューいじら湖荘をたずねました。

一年を通して自然と触れ合える

f:id:takashi213:20200313170840p:plain

山々に囲まれたなか静かな湖面が広がる伊自良湖。この日はあいにくの天気で釣り客も少なめでした

伊自良湖を訪れたのは11月も半ばのこと。この日は時々小雨が降り、厚い雲が空をおおうあいにくの天気。それでも、深い緑の樹林にかこまれたなか、静まりかえる遠くの山々を眺めていると、なんだか気分も落ち着いてきます。湖畔を歩きながら潤った空気を吸い込むと、なんともいえない心地の良さを覚え、気持ちも新たになります。

ワカサギの釣り場として知られる伊自良湖は、周囲が2.4キロメートルの人造湖です。桜の花見や紅葉など、湖とともに映す四季の変化が多くの人を魅了。さくら祭りやもみじ野菜祭り、わかさぎ祭りなど、開かれるイベントも多く、近くにはキャンプ場も。湖ではワカサギのほか、コイやヘラブナなども釣ることができ、一年を通して自然と触れ合うことができます。

そんな伊自良湖に着いたのは、お腹もかなりへこんだお昼すぎ。さっそく湖畔に立つニューいじら湖荘を訪れました。

地域おこしを図ろうとメニューを考案

f:id:takashi213:20200313171045p:plain

藤田さんが見せてくれた伊自良湖のワカサギ

ニューいじら湖荘ではワカサギ釣りのシーズン中、湖でとれたワカサギの唐揚げ、そば、地元産の野菜が味わえる「わかさぎ定食」(1000円)のほか、「わかさぎ丼」(630円)を提供しています。

ということで、楽しみにしていた名物の「わかさぎ丼」をさっそく注文。しばらく待ってから、テーブルへと運ばれてきた丼ぶりと対面し、その見た目の華やかさにまずびっくり。冒頭の写真を見てわかるように、ご飯のうえにずらっとならぶワカサギの唐揚げ。そのうえにはいろんな野菜が盛られ、たっぷりのあんがかかっています。

サクッとしたワカサギの唐揚げは、軽い口あたりでとても食べやすい。野菜はシメジ、ニンジン、ピーマンなど、地元でその時期にとれるものが6種ほど。それぞれに異なる味や食感を楽しむことができます。うえにかかるあんには、地元産の柿からつくられた柿酢が程よく使われ、甘い酸味が食欲を刺激します。伊自良の味覚が凝縮された贅沢な丼ぶりをゆっくりと味わっていただきました。

1982年のオープンから今年で30年を迎えるニューいじら湖荘。経営する藤田力弥さん、律子さん夫婦によると、「わかさぎ丼」をメニューに加えたのは15年ぐらい前になるそうです。当時、県のほうから地元の食材を使ったメニュー開発の依頼があり、地域起こしを図ろうと取り組むなかでうまれました。このときにちょうど伊自良の特産となる柿酢が商品化されたことから、ワカサギと組み合わせた料理がなにかつくれないか。さらに地元産の野菜も加え、試行錯誤のすえに考案。ここでしか味わうことのできない丼ぶりが完成しました。

力弥さんが、たくさんの食材を使い時間と労力をかけてつくる「わかさぎ丼」。「地域のものをぎゅっとつめました」。律子さんが自信を込めて語ります。

ニューいじら湖荘では、ワカサギのほかにもぶた肉のしゃぶしゃぶ、しし鍋、かも鍋など、地元産の食材を使ったさまざまな料理を以前から提供しており、岐阜県の「県産品愛用推進宣言の店」の認定を受けています。

奥の深いワカサギ釣り

f:id:takashi213:20200618004915p:plain

湖畔にあるニューいじら湖荘。食事が楽しめるほか、地元産の農産物や加工品なども販売、宴会(送迎有り)も受け付けています

伊自良湖では、毎年9月から5月までがワカサギ釣りのシーズン。家族連れやグループで、県内はもちろん、愛知や関西方面から訪れる客も多いそう。ニューいじら湖荘では、貸しボートや釣り道具のレンタルも受け付けています。

「今年は去年に比べてワカサギが大きいんです」と力弥さん。初心者でも半日で30、40尾釣る客もいて、ベテランになると100尾を超す人も。卵からふ化したワカサギの成長具合は天候などの影響によって異なり、その年によってサイズや釣果も変わるそうですが、今年はとても評判が良いとのこと。

その日の天気などから遊泳するポイントや深さをよみ、微妙なあたりにあわせて繊細な穂先の竿を操るワカサギ釣りは、実はとても奥の深い遊び。その面白さにはまり、ワカサギだけを追いかける釣り人も少なくないそうです。力弥さんにアドバイスをうかがうと、解禁直後からしばらくは警戒心もうすく良く釣れるとのこと。寒さが本格化してくる冬になると食欲も旺盛になり、特に朝や夕方がねらい目だと教えてくれました。

力弥さん、律子さんの穏やかなやさしい口調からは、地域を想う気持ちがじんわりと伝わってきます。お二人の笑顔も、伊自良湖の自然とともに訪れた人々の癒しにきっとなっているはず。またゆっくりと訪れて、地産の料理を味わい、静かな湖面にうつる四季折々の景観を眺めてみたいと思う、魅力にあふれたところでした。(新美貴資)

※記事に記載されている価格は、取材当時のものです。

みつける。つながる。中部の暮らし 中部を動かすポータルサイトDoChubu