里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】名古屋の台所・柳橋市場のにぎわいを体感! なごや環境大講座第1回「日本人と魚」

〈『DoChubu』2011年11月2日更新、2020年4月22日加筆修正〉

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市場を見学する参加者。市場の店頭にはいろんな旬の魚がならんで活気にあふれています

「食の大切さと人と人のコミュニケーションを柳橋中央卸売市場で学ぶ!」をテーマにした、なごや環境大学共育講座の第1回「日本人と魚」(主催:柳橋市場青年部食育応援隊)が2011年10月1日(土)に名古屋市中村区の同市場内であり、一般から約20名が参加して開かれました。

参加者は朝の市場を歩いて見学。店頭にならぶ魚について説明を受けた他、市場内にある巨大な冷凍庫に入り、冷凍水産物が保存されている現場を体感しました。講師を務めた中部水産取締役部長でおさかなマイスターの神谷友成さんが、実際の魚を前にオス・メスの見分け方を教え、イクラの醤油漬けのつくり方なども指導。大人から子供までが一緒に体験し、楽しみながら魚について学びました。

市場はコミュニケーションが大事

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見学時も多くの魚介類が販売されていました

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朝の市場ではいろんな魚と出会うことができます。写真はアコウダイ(左)とハモ(右)

高層ビルが立ち並ぶ名古屋駅周辺からすぐのところにある柳橋市場。駅近くにある民間の市場としては日本有数の規模で、鮮魚はもちろん精肉、青果などの生鮮食料品をはじめ、惣菜や乾物、加工品まで、なんでもそろいます。長い歴史を持つこの市場では現在約450の専門店が営業しており、名古屋市民の台所として親しまれています。

早朝のにぎわいが残る朝の8時半に参加者は集まり、市場での講座が始まりました。まずは市場を実際に見てもらおうと、主催者の案内で参加者のみなさんは市場のなかを歩いて見学しました。すでに一日でもっとも忙しい取引の時間帯は過ぎていましたが、それでも市場内は多くの業者が忙しく行き交い、荷の積み降ろしを済ませたトラックが道を慌ただしく通り過ぎていきます。多くの専門店が軒を連ねる市場の建物へと入ると、それぞれの店の前にはたくさんの活魚や鮮魚がならんでいて目を奪われました。

この講座の主催者である青年部食育応援隊の鈴木正明さんは、市場内で「魚友」という海産物を扱う店を経営しています。見学の途中で「魚友」に寄ると、鈴木さんが今朝仕入れたクエ、ケンサキイカアコウダイ、ハモなどの魚を一つひとつ説明してくれました。

「この魚はなに?」「産地はどこ?」。参加者の大人や子供からは次々と質問の声があがり、鈴木さんが丁寧に答えていきます。「市場はコミュニケーションが大事」と話す鈴木さん。店の人にいろいろ質問して、その日のおすすめやおいしい食べ方などのアドバイスを受け、会話をしながら目的にあった魚を選ぶのが市場で上手な買い物をするコツです。

イクラの醤油漬けをつくる

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サケをさばいてスジコを取り出します

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(左)講師を務めたおさかなマイスターの神谷友成さん。(右)講座を主催した柳橋市場青年部食育応援隊の鈴木正明さん

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スジコを網でこすって卵をばらしていきます

市場を見学した後は、市場内にある柳橋水産ビルの会議室で、講師の神谷友成さんから魚について講義を受けました。神谷さんの説明によると、世界にいる魚は現在約2万8000種。日本の魚は約4000種あると言われ、このうちの300から500種ぐらいを食べているそうです。

国内の各市場では180から300種ぐらいの魚を扱っていますが、北海道と九州ではその種類も大きく異なります。日本の北から南まで、流通する魚の種類は「パステルカラー」のようにすこしずつ変わり、その地域で獲れる魚を使った固有の郷土料理が存在します。その土地の情景を思い浮かべながら食べることで、味わいがより深くなる。それが「和食の文化」だと神谷さんは話します。

講義の後、鈴木さんがさばいたサケからスジコを取り出し、神谷さんの指導を受けながら参加者全員でイクラの醤油漬けをつくりました。サケのお腹から現われた立派なスジコを「靴下をひっくり返すように」して、網にあててこすると、橙色に輝く卵が一つひとつきれいに離れていきます。

記者も体験してみました。スジコの塊をしっかり握り、やや力を込め網に押しあててこすると、卵はつぶれることなく簡単にポロポロと離れて、簡単に取ることができました。

取り出したイクラには、「卵かけのご飯に醤油をかけるイメージ」で調味料を適量加えます。今回は、神谷さんが老舗の料亭で使っている特選のタレ、市販のしょうゆとお酒の2種類の調味料を持参。2つの容器に分けたイクラにそれぞれ調味料を適量加え、しばらく冷蔵庫に保管して味をつけました。「自分の味でつくるのがミソ」と話す神谷さん。ひと手間かければかけた分、おいしさはきっと増すはずです。

「食べたらおいしいのは当たり前。どうおいしいのかを具体的に言いましょう」と神谷さんは参加者に呼びかけます。香りや色合い、歯ごたえや舌触りなど、どうおいしかったのかを言葉に表せば、つくった人もうれしいし、食べるほうも味わいがより増して食事がさらに楽しくなる。神谷さんは、今の日本人が忘れてしまっているこうした部分を、もっと大切にしなければならないと指摘します。

マイナス50度を体感

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イクラの醤油漬けを試食する参加者のみなさん

その後、参加者は柳橋市場水産組合の職員の方の案内で、市場内にある巨大な冷凍庫施設へ。さまざまな水産物が保管されている冷凍庫のなかに入って、実際の氷点下の温度を肌で体感しました。

まず入ってみたのは、マイナス20度の冷凍庫です。床面が凍結して滑りやすいため、注意をしながらゆっくりと中へ進みました。一歩入ると急激な寒気で体が一気に凍りつき、しばらくするとふるえが襲ってきます。

続いて入ったのが、マグロを保管するマイナス50度の特別な冷凍庫です。もう冷たいというよりは痛いという表現のほうがぴったりかもしれません。冷凍庫内の視界は強烈な冷気で曇り、素肌をさらしている顔や腕には痛みが走ります。記者はたまらずすぐに退出。他の参加者も「寒いー!」「ふるえるー!」と口々に叫んで出口へ戻ります。普段は一般の目にふれることのない巨大な冷凍庫のなかに入り、冷凍水産物が保管されている実際の現場を見ることができたのはとても貴重な体験でした。

冷凍庫を見学した後は、再び場所を会議室に移し、参加者のみなさんがつくったイクラの醤油漬けをご飯やクラッカーに乗せて試食しました。料亭のタレとしょうゆ、酒でつくったものとの違いを確かめながら参加者同士で交流を深め、この日の講座は終わりました。市場内の見学から魚の講義、さらにイクラの醤油漬けをつくって味わったり、とても盛りだくさんな内容の講座でした。

市場の世界は、知れば知るほど深くて面白く、多くの魅力にあふれています。市場を舞台に魚のプロからいろんなことを学ぶことができ、参加者のみなさんも大いに満足の様子でした。(新美貴資)

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