里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】活きたマダコを調理。ゆでタコと蒸しタコにして食べ比べ!第55回「味わって知る わたしたちの海」

〈『DoChubu』2012年11月13日更新、2020年4月23日加筆修正〉

伊勢・三河湾で獲れる魚介類を調理して味わう、なごや環境大学の共育講座「味わって知る わたしたちの海」の今年度第4回が2012年9月13日(木)、名古屋市昭和区の昭和生涯学習センターで開かれました。

今回のテーマは、「伊勢・三河湾でとれた活きたマダコをさばいて食べてみよう!」で、一般から約30名が参加。講師を務めた中部水産取締役販売促進部長でおさかなマイスターの神谷友成さんから、活きたマダコの調理法を学んでゆでタコや蒸しタコをつくり、それぞれを食べ比べて味や食感の違いを確かめました。

試食後の講義では、神谷さんがマダコの生態、タコとイカの違いなどについて話し、参加者は熱心に耳を傾けました。

動くマダコに驚きの声

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頭の内側に手を入れて内臓を取り出します

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塩をふってもみこみんでいくと大量の白い泡が発生します

この日に用意されたマダコは、愛知県南知多町の離島である日間賀島周辺で獲れたものです。このマダコを使って、神谷さんが下処理の方法を実演しました。

神谷さんは、慣れた手つきでマダコの頭のなかに指を入れ、内臓とつながっている筋を切断。頭をひっくり返して中身を表にだすと、包丁を使い内臓を取り除いていきます。続いてマダコの体表に少量の塩をかけたら網袋に入れ、体重をかけた両方の手のひらでしっかりともんで、ぬめりを落とします。ぬめりが残ると料理のできあがりが生臭くなり、もみ方があまいと身が硬くなってしまうので、時間をかけてよくもむのが下処理のポイントです。

神谷さんのアドバイスを受け、参加者も活きたマダコを相手に調理を始めました。動くマダコを手にして、会場のあちこちからは驚く声が聞こえてきます。やわらかな内臓を取り出したら、次は力の要るぬめりとり。参加者はマダコに手のひらを押し当て、交代でごしごしともみ洗いを続けます。10分以上もんだものの表面を指で触ってみると、やわらかいゴムのような感触で、ヌルヌルとした気持ちの悪さは完全に消えていました。

記者もぬめりをとる体験をさせてもらうことに。グニュグニュとしたマダコに力を込め、必死でもみ続けていると、すぐに手のひらが痛くなり、1分もたたないうちに息があがってバテてしまいました。

異なる7種を食べ比べ

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講座で調理したゆでタコ(左)と蒸しタコ(右)

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マダコのカルパッチョ、サンマご飯、愛知の伝統野菜である「天狗なす」を使った味噌汁

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好評だったマダコのカルパッチョ

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調理時にしょう油や酢を加えたものと加えてないものなど、ゆでタコと蒸しタコをそれぞれ3通りの方法で調理しました

この日調理したのは、ゆでタコ、蒸しタコのほか、マダコのカルパッチョ、サンマご飯、愛知県の伝統野菜である「天狗なす」を使った味噌汁です。

ゆでタコは、水のみでゆでたもののほか、しょう油しょう油お酢を加えたものの3通り。蒸しタコは、水のみのほか、しょう油、酒をそれぞれ加えた3通りの方法で調理。参加者は6つのグループに分かれ、6種のゆでタコ、蒸しタコをつくりました。調理前、内臓を除去した塩もみ後、調理後にはマダコの重量をはかり、塩もみにかけた時間も計測し、グループごとに黒板に書いて記録しました。

参加者は、6通りの方法で調理されたマダコに、用意されたモロッコ産の蒸しタコを加えた計7種をそれぞれ食べ比べました。記者も、水のみで蒸したものをまず口に入れてみました。塩気がほどよくきいていて、かみしめるたびにマダコのもつうま味が口のなかにあふれでます。食感は、硬すぎずやわらかすぎず、肉質のぎゅっとつまったもっちり感があって、普段口にする輸入物のスカスカしたような歯ごたえとは異なります。

ゆでたものと蒸したものとでは、食感に微妙な違いがあり、また同じゆでたものでも、しょう油お酢を加えることで味や歯ごたえには差がうまれるようです。参加者に聞くと、好みはいろいろに分かれましたが、7種にはそれぞれ違いがあることが食べ比べでわかったようです。

たっぷりのアボガド、ミニトマトなどが入ったマダコのカルパッチョも好評で、トマトソースをかけるとまた違った味わいや彩りが堪能できます。参加者はマダコの食べ比べを楽しみながら、サンマご飯、天狗なすの味噌汁をいただきました。

神谷さんは、ただおいしかったかどうかではなく、どんな味や食感がしたのかを言葉に表してまわりの人に伝える、食事を通したコミュニケーションが大切だと訴えました。

魚のストーリーを説明する

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魚介類のおいしい味わい方などを講義するおさかなマイスターの神谷友成さん

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神谷さんの話に熱心に耳を傾ける参加者

食事をとった後は、神谷さんが食の楽しみ方や魚介類のおいしい味わい方、マダコの生態などについて話しました。魚介類の刺身については、都会ではコリコリとした新鮮な食感が好まれ、港町では歯ごたえよりも熟成させた味を優先する傾向にあるようですが、神谷さんは「食べ物の好みにはたくさんの意見があって当たり前」と言います。

それでも今回、参加者が食べ比べたそれぞれのマダコの味や食感、色について意見を集約していくと、この地域の人々が好む傾向がみえてくると語ります。そのうえで、「一つ言えるのは、大勢で食べると楽しいということ」と神谷さん。海のものを使った料理には、もみじの葉を添えたり、陸のものを付け合せるプロの技も紹介。ちょっとした工夫で料理がさらに引き立ち、おいしくなるポイントを伝授しました。

今回の調理についても振り返り、活きたマダコから内臓を取りのぞき、時間をかけて塩もみすると、目方が3割近くも減っている点に着目。このことから調理には多くの時間と労力がかかることを強調し、プロの職人によってつくられた料亭の料理は、「(値段が)高くなるのも一理ある」と説明しました。また、タコには腕が6本あり、残る2本が足であるという研究発表の事例や、タコが2本の足で海底を歩く動画を紹介すると、参加者からは驚嘆の声があがりました。

さらに魚介類の現在の消費動向についても触れ、生活者のおもな購入先はセルフサービスが基本のスーパーで、よく売れているのはマグロ、サンマ、アジ、カツオぐらい。商品形態も扱いやすい切り身が中心になっていると解説しました。

お客は「知らないもの、調理できないものは食べない」ことから、お店も売れない魚は仕入れなくなっていると語り、そのようななかで取り組んでいる魚食の普及について、「魚にひそむストーリーを含めて説明している」と話す神谷さん。おさかなマイスターの立場から言葉に力を込め、魚食の意義を多くの人に伝えてほしいと参加者に呼びかけました。(新美貴資)

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