里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】三河湾環境再生プロジェクトで日間賀島の干しタコづくりを体験!第56回「味わって知る わたしたちの海」

〈『DoChubu』2012年12月8日更新、2020年4月24日加筆修正〉

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下処理がほどこされ天日に干される日間賀島のタコ

伊勢・三河湾で獲れる旬の魚介類を味わい学ぶ体験型の講座「味わって知る わたしたちの海」の第56回が2012年9月25日(火)、愛知県南知多町日間賀島で開かれました。今回は、愛知県が取り組む三河湾環境再生プロジェクトの一環として企画され、伊勢・三河湾流域ネットワークが主催。県が後援し、山崎川グリーンマップの協力を得て行われました。

一般から参加した22人は、周辺の海で漁獲された島の名物のマダコを使って干物づくりに挑戦。昼食は地魚料理の店でとり、島の漁師や体験漁業などのイベントを開いている主催者から話をうかがい、海と向きあい環境を守りながら生活する島の人たちの生き方について共感を深めました。

観光と漁業の島 

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南知多町の師崎港から高速船に乗って日間賀島へと向かいます

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大きな旅館が立ち並ぶ日間賀島の西港周辺

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参加者がタコの干物づくりを体験した「かねと商店」

参加者を乗せたバスは午前9時過ぎに名古屋市内を出発。秋晴れの青空が広がるなか、南知多町の師崎港へと向かいました。移動の車中では、伊勢・三河湾流域ネットワークのメンバーで山崎川グリーンマップ代表の大矢美紀さんが、愛知に3つある有人の離島について説明。その一つの日間賀島について、「漁業と観光業の協働した取り組みが進んでいる」ことを特徴にあげました。

また同ネットワーク代表世話人の井上祥一郎さんは、三河湾内での干潟造成の取り組みや植物プランクトンの異常増殖によって起こる赤潮の発生について解説。昔から各地にある魚つき林にも触れ、沿岸域の森づくりが豊かな漁場の復活につながると話し、環境の再生について全国で行われているさまざまな事例を紹介したうえで、「三河湾の環境再生は可能だと思う」と話しました。

知多半島の最南端にある師崎港にバスが到着すると、ここからは高速船に乗り換え。目指す日間賀島へ穏やかな海上を勢いよく進むと、あっという間に島の西港に着きました。大きな旅館が立ち並ぶ西港の周辺をぬけて、東港へと通じるゆるやかな坂道を登っていくと、タコの干物づくりが体験できる、干物などの海産物を製造・販売する「かねと商店」が見えてきました。

広がる青い海と潮風が心地よい日間賀島までは、名古屋から車と船でおよそ1時間半。風光明媚な眺望と豊かな海の幸に魅せられ、多くの観光客が一年を通して訪れる観光と漁業の島です。

島の人々と楽しく交流 

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(左)漁獲後に一旦冷凍し、解凍したタコを使って干物をつくりました。(右)元気に動きまわる活きたタコも用意され、参加者は恐るおそる手を伸ばし感触を確かめました

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「かねと商店」を経営する漁師の鈴木斉さんが干物のつくり方を参加者に教えました

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(左)お店のスタッフから指導を受け、包丁を使ってタコの下処理を行う参加者。(左)下処理を終えたタコはしょうゆダレに浸し、竹ひごを使って体を開いて干していきます

さっそく参加者は、かねと商店でマダコを使った干物づくり体験に挑戦しました。つくり方を教えるのは、お店を家族で営みながら、島の周辺の海で潜水漁を行っている漁師の鈴木斉さんです。活きたタコも用意されましたが、ぬめりが多くて身も硬く、扱うのが難しいそう。冷凍もののほうが、「うま味が増してやわらかくなる」とのことで、解凍されたタコを使いました。

参加者は、お店の前に置かれている広い台を囲み、一人に一匹用意されたタコをまな板の上にのせて、下処理を始めました。鈴木さんやお店のスタッフのていねいな指導を受けながら、手で内臓や目などを取り除き、包丁を使って足と足の間にある水かきのような部分に切れ目を入れていきます。グニャリとした生のタコの感触に、どの参加者も驚きの表情を浮かべます。下処理を終えたタコは秘伝のしょうゆダレにしばらく浸した後、竹ひごを使って胴体や腕を広げ、日がよく当たる風通しのよい場所に吊り下げて干します。

干物づくりを一人ひとりに教えながら、行っている漁や獲れる魚のことなど、島の豊富な話題を提供する鈴木さん。参加者に積極的に話しかけて、笑顔で交流を図ります。そのくったくのない語り口に、参加した人々からは何度も笑い声がうまれました。

かねと商店では、8年前から島を訪れる観光客を対象にしたタコの干物づくり体験を行っています。鈴木さんによると、島の名物となっているタコは、タコつぼ漁などによって一年中獲れるのだとか。干物づくりの体験は大人から子どもまで、県内外のたくさんの人々に人気で、多いときには一日に100人の申し込みがあるそう。

「お客さんの喜ぶ顔がいいからやめられない」と笑みを浮かべる鈴木さん。島で生まれ育ち、15歳で海にでて、漁師歴は今年で46年目。いまも現役で海にもぐり、タイラギやウチムラサキ(オオアサリ)、ミルクイなどの貝を恵まれた漁場で採り続けています。

豊富な魚介類が魅力 

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「栄五郎寿司」でいただいた豪華な地魚料理

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名古屋では食べることのできない新鮮な生シラスも

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日間賀島遊考舎の宮地明彦さん(左)と潜水漁を行う鈴木斉さん(右)

全員でタコを天日に干し終えたら時間はお昼すぎに。昼食は、かねと商店の近くにある「栄五郎寿司」で、島で揚がった旬の魚介類などをいただきました。参加者は、名物料理であるタコ飯や新鮮な生のシラス、カンパチの刺身など、島ならではの料理を堪能し、満足の様子でした。

食後には、島で体験漁業のイベントを主催している日間賀島遊考舎の宮地明彦さん、潜水漁を行う鈴木斉さんが、島の伝統文化や産業、魅力などについてそれぞれの立場から話しました。

宮地さんは、冬期に島で盛んなトラフグ漁や自身が春から秋にかけて行っている体験漁業などについて説明。豊富な魚介類が四季を通して揚がることから、「島に食べに来てほしい」と呼びかけました。また、島には県内の離島で唯一となる下水道が敷かれており、環境に配慮した先進的な取り組みが進んでいることも紹介。歴史的な遺産や多様な伝統文化にもふれながら、島の様子をわかりやすく参加者に伝えました。

続いて鈴木さんが、島の漁師の生活や行われている漁業について紹介。海での仕事は命がけの大変な仕事であることを強調したうえで、「収入が安定しないほうがやりがいがある」「潜りは自分で見て採るから確実にとることができる」などと漁業の魅力について語り、参加者からの質問に笑顔で答えながら対話を重ねました。

この後、参加者は再びかねと商店に立ち寄り、出来上がったタコの干物を一人ずつ受け取りました。お店のなかでアナゴの干物やノリなど島の特産品を買い求め、付近を散策して楽しみ、たくさんの笑顔とやさしさにあふれた島を後にしました。

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島の西港では大きなタコが観光客を迎えてくれます

(新美貴資)

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