里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】佐久島のマナマコを唐揚げやお茶漬けでいただく!第51回「味わって知る わたしたちの海」

〈『DoChubu』2012年6月7日更新、2020年4月22日加筆修正〉

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佐久島で漁獲されたマナマコ。島は三河湾内で獲れるマナマコの主な産地のひとつで冬の時期に漁が行われます

地元の伊勢・三河湾およびその流域で獲れる旬の魚介類を調理して味わう、なごや環境大学の共育講座「味わって知る わたしたちの海」(主催:伊勢・三河湾流域ネットワーク、山崎川グリーンマップ)の2011年度(平成23年度)の第8回が2012年2月23日(木)に、名古屋市昭和区の昭和生涯学習センターで開かれました。

今回は「佐久島からの贈りもの」をテーマに、島で民宿を営む鈴木和男さん、西尾市役所佐久島振興課主事の山田安利さんを講師にむかえ、島の周辺でとれたマナマコを使い、地元の人々が考案した唐揚げやお茶漬けをつくって味わいました。参加者はマナマコを手にとり、細長いワタ(腸)をとりだす工程も体験。島では、とりだしたワタを塩漬けにし、独自の技法をくわえて仕上げた「このわた」が特産となっています。

やわらかくてぶよぶよとしたマナマコは、とても強い生命力をもつ不思議な海の生き物。ふだんなかなか触れる機会のないことから参加者の関心は高く、ワタを取りだしたり、身を切る場面では、驚きの声があちこちからあがりました。魚や貝を中心に扱ういつもとはちょっと異なる海の幸を新たな食べ方で味わい、三河湾の旬の味覚を堪能しました。

どんどんでてくるワタにびっくり

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マナマコの調理法を説明する講師の鈴木和男さん(左)と山崎川グリーンマップ代表の大矢美紀さん

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マナマコの体に切れ目を入れて身をしぼりワタをとりだします

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ワタを取ったマナマコから身を切り出して湯に通していきます

島で民宿「市兵衛」を経営しながら家族で漁を営んでいる鈴木さん。人口が減り過疎化がすすむ島に再び活気をよびもどそうと、島民の活動によって継続されている「島を美しくする会」にも積極的に参加。同会に4つある分科会のひとつ、「美食分科会」のリーダーとして、メンバーらとともに島で獲れるマナマコを使った唐揚げやお茶漬けといった、これまでにないメニューを考案。観光客をよびこむ新たな魅力につなげようと取り組んでいます。

講座の冒頭、鈴木さんはあつかうマナマコを手にとり、参加者のみなさんを前に調理を実演。マナマコの生態や島の特産であるこのわたについて説明しました。調理するマナマコは、佐久島で漁獲された地元ではアオナマコと呼ばれるもの。マナマコにはアオナマコのほか、アカナマコ、クロナマコと言われる種類があり、それぞれで色が異なり、味や食感にも違いがあります。

マナマコが獲れるのは冬の時期。島では箱めがねでのぞきながら、かぎのついた長い竹ざおでひっかけてとる、なまこかぎや小型底びき網の漁によって漁獲されます。

島で伝統を守りながらつくられているこのわたは、取りだしたワタのなかにある泥などの内容物をぬき、塩漬けにしたもの。その製造方法は独特で、作業場に外部の人間が立ち入ることはできません。かつては将軍家にも献上されたという由緒ある島のこのわたは、多くの先人の手をへて、その味をいまに伝えています。

マナマコについて解説をくわえながら、慣れた手つきでワタを取りだしていく鈴木さん。ぶつぶつとしたお腹に切れ目をいれて、ぎゅっとしぼりだすと、ひっぱる手には橙色の見るからにやわらかそうな、細長いワタがどんどん伸びて現れます。あちこちからわきあがる、「おー!」「すごい!」といった参加者の声。鈴木さんの上にかかげた手からだらりと垂れ下がるワタを見ると、40センチはありそうな長さ。このワタが、「人間でいうと食道から肛門までつながっている状態。すぐに切れてしまうからていねいに扱って」と話します。

いま取りだしたものが、このわたの製造に使われるワタで、島では「イチノワタ」とも言うそうです。ほかにもお腹のなかには、「コノコ」と呼ぶ卵巣やワタをおおっている「ニノワタ」があり、どちらも塩漬けにして食べます。

海の底にあって、「海藻から砂、泥まで何でも食べる」というマナマコ。鈴木さんが取りだしたワタにも、外見からわかるほどに上から下までたっぷりの泥がつまっていて、よく見る太いところがあったり細いところがあったりでこぼこしています。そんなワタが切れないよう、鈴木さんは注意しながら水を入れ、つまっている内容物を慎重にぬいていきます。ワタを取りだした身のほうは、包丁でタテに2つに割って、唐揚げとお茶漬け用に5ミリほどの厚さでうすくカットしていきます。

マナマコの調理を見るのは初めてのこと。身の断面が発する青色のあまりの鮮やかさに、しばらくは目を奪われてしまいました。鈴木さんの実演が終わると、参加者のみなさんはそれぞれの厨房にわかれ、マナマコの調理にさっそく取りかかりました。

調理のポイントは湯引き

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マナマコの内臓。左上から時計まわりでコノコ、ワタ、ニノワタ

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この日つくったマナマコのお茶漬け、唐揚げ、ワタにみりん、ウズラの卵黄を加えたもの

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佐久島で製造された、左から塩漬けしたコノコ、ニノワタとこのわたの製品。島では12月から3月ごろまでこのわたづくりが行われます

生だと硬いマナマコの身の調理は、湯引きがポイント。適度な湯引きでやわらかくなりますが、時間をかけすぎると逆に硬くなってしまいます。お茶漬けのほうは3、4秒。唐揚げのほうは10秒弱ぐらいで。鈴木さんは湯引きする時間をアドバイスします。お茶漬け用に薄くカットした身は、カツオだしで湯引き。カツオのだしをそのままいかし、白だしを加えてお茶漬けにします。唐揚げ用のマナマコは、湯引きをした後しっかり水気をふきとり、味をつけて油で揚げていきます。

取りだしたワタは、まな板の上にのせ、包丁で適当な大きさに切り、ウズラの卵黄とみりんを加えまぜていきます。一つのマナマコから一本しか取ることができない、とても貴重なワタ。鈴木さんは「手間ひまをかけて。一本でも大切にしないともったいない」と話します。まぜあわせていくと、次第にまろやかさがうまれ、最後にウズラの卵黄をのせればできあがり。料理に彩りがくわわることから、この一品をメニューとしてだしているところもあるそうです。

にぎやかだったそれぞれの厨房も、調理のほとんどは終わり、いよいよ楽しみにしていた試食の時間へとうつります。これほどたくさんのマナマコをいただくのは記者も初めてのこと。「いただきます」と手をあわせ、さっそくお茶漬けをすすり、マナマコにはしを伸ばすと、身は思っていた以上にやわらかで、コリコリした程よい感触が歯にあたります。カツオのだしもよくきいていて、これまでにない新鮮な味わいと食感です。

唐揚げの身はもっとやわらかくて、弾力ある歯ごたえがこれまた新たな感覚を呼びます。身自体にもともと含まれていた塩気がちょうどよく、噛めばかむほどに味わいが広がり、ビールなどアルコールのつまみにもよくあいそうです。ワタにみりん、ウズラの卵黄をまぜた一品は、とってもまろやか。ワタにほんのりとした甘みがあって、口から鼻へと磯の香りがぬける、まさにお酒のお供にぴったりな海の珍味といった感じでした。

活性化プロジェクトで客をよびこむ

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佐久島の概要や地域活性化プロジェクトについて説明する佐久島振興課主事の山田安利さん

マナマコの料理を参加者、スタッフの全員でいただいた後、佐久島振興課の山田さんが島の面積や人口などの概要をはじめ、島を美しくする会など、活性化に向けて行われているさまざまな活動について説明しました。

三河湾のほぼまんなかに浮かぶ佐久島は、面積が1.81平方キロメートル。海岸線の長さは約12キロメートルある県内で最大の有人の島です。一年を通じて気候は温暖で、のんびりとした空気がただようこの島に、現在(2012年2月1日現在)277人が暮らしています。主な産業は水産業で、島民のほとんどがアサリ漁に従事。水揚げされる魚介類の半分をアサリが占め、冬に漁獲されるマナマコやフグなども重要な水産物となっています。また、島全体が三河湾国定公園に指定されており、自然環境も良好な状態で保たれています。

山田さんによると、島の人口は統計をとりはじめた1889年の1434人から減少の一途をたどっており、高齢化も深刻です。このため、同課ではいくつかの地域活性化プロジェクトをたちあげ、島おこしに力を入れています。その一つが2001年から始まった「佐久島アートプラン21」。島の伝統文化をベースに、アートイベントや展覧会をひらき、島内外のさまざまな出会いをうみだしていく事業です。

島内のあちこちに置かれている芸術作品を鑑賞しながら散策できる「佐久島アート・ピクニック2011」や、島にある88ヶ所の弘法のほこらのうち、建築家によって再生された
6つのほこらをめぐる「佐久島弘法巡りスタンプラリー」が人気を集めています。このほかにも、島の鯉のぼりや雛(ひな)まつりなどの企画展、茶会や自然観察会などのイベントも開かれ、訪れる観光客は年々増えているそうです。

島民によって組織されている、島を美しくする会では、「ひと里」「漁師」「美食」「いにしえ」の4つの分科会を中心に、①定住促進、②商品開発、③景観づくり、④文化保存ーなどの活動をすすめています。

たとえば、漁師分科会では、干物・加工品の開発、伝統の貝紫染体験教室を開くといったカルチャー漁業の推進、後継者確保など。美食分科会では、島の食材研究や開発した料理の試食会を開いたりして、名物料理の開発・研究に取り組んでいます。

こうした島民による、島の伝統文化や資源をいかした自主的かつ多様な活動から、島外のボランティアや地域づくり団体、大学などの研究機関、アーティストなどとの交流がうまれ、島おこしの大きな原動力になっています。

地域の活性化にむけて、島民が熱心に活動を続けている点を山田さんは強調しますが、島の人口は減り続けており、さらに高齢化も押し寄せる厳しい状況で、「島の力だけでは活動はできない」ことを指摘します。山田さんは、活性化のプロジェクトを継続して行うことができるのは、島外から訪れるボランティアの存在が大きいと話します。

「島を訪れて活動をみて、知っていただければ」。まずは島に来てもらい実際に行われているさまざまなイベントを体験してもらうことで、島の魅力がすこしでも他に伝わり、広がっていくことを期待します。最後に山田さんは、島の特産でブランドにもなっているアサリを紹介。潮干狩りも楽しめるので、ぜひ島に遊びに来てくださいと受講者にアピールしました。

島をもっと元気にしようと、島民によって継続されているさまざまな取り組み。その一つひとつには、島の伝統文化や資源がしっかりといかされていて、ぬくもりが伝わってくる手づくり感のような、なんともいえない素朴であたたかな印象を、山田さんの説明からは受けました。マナマコの料理を紹介した鈴木さんからも、その柔和な表情と気さくな口調から、島の穏やかな光景が目にうかび、のんびりとした時間のながれる雰囲気が会場にただよってくるようでした。

マナマコを調理して味わい、島の話題を中心に交流をふかめることで、受講した参加者、スタッフのみなさんにも佐久島の魅力の一端がきっと伝わったのではと思います。

(新美貴資)

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