里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

〈新美貴資の「めぐる。(3)」〉川とともに生きる 郡上・和良川漁師 大澤克幸さん

〈『日本養殖新聞』2012年8月15日号掲載、2020年4月13日加筆修正〉

多くのアユ釣り客を魅了してやまない数多の山河がひしめく岐阜県郡上市。なかでも同市の最奥にある和良町で釣れた香魚は、絶品との誉れが高い。この小さな盆地の山里で成長したアユが「清流めぐり利き鮎会」で国内最多の5度の受賞に輝いたことは、県内でもあまり知られていない。

平成の名水百選」にも選ばれた町の中心を流れる和良川。この清流にびっしりと生える良質な藻が、独特な風味を放つアユを育てる。たくさんの水生昆虫のほか、それらを捕食するウナギやアマゴ、アジメドジョウなど、アユにも負けない味覚をもつ川魚が数多く生息し、多様な生態系を形づくる。

郡上を訪れたのは8月の初め。「おいしいのは今ごろ。活発に動いているから」と、和良川で捕れるウナギについて語るのは、漁師の大澤克幸さん(40)。同町で生まれ育ち、自宅のすぐ前を流れるこの川を遊び場として育った。家業である自動車の整備工場を営みながら、地元の和良川漁協副組合長、昨年発足した「和良鮎を守る会」代表を務める。

祖父から教わったというウナギ漁は、カジカやアブラハヤなどの魚を針にかけて石の隙間に仕掛ける「差し込み」。川べりの草木に糸を結んで針をつけた餌を川へ投入する「投げ込み」。水中をのぞきこんで穴から顔をだしたウナギをヤスで突く「夜突き」の3つ。「差し込み」や「投げ込み」を行うのは、ウナギが餌をあさる夜間前の夕方から。長年の経験から導きだされる勘を頼り、いくつかのポイントに餌を仕掛けて翌朝引き上げる。

ウナギ漁の期間は5月初めから12月末まで。なかでもよく捕れるのは「5月の初夏と9月の秋口で食いがいい」と話す。大澤さんが仕掛けで使う重りや浮きなどの道具は、身近にある物を使った手作りがほとんどで、その一つひとつには独自の工夫がほどこされている。

捕れるウナギの多くは、牛乳瓶ぐらいの太さをした1キロ以下のサイズだが、なかにはビール瓶のような3キロ以上のものがかかることも。体は金や銀色をし、まだら模様が入っているものもあったりといろいろ。その生態にはわからないことが多いと目を輝かせる。

「時間が空くといつも川にいるんです」と笑みを浮かべる大澤さん。和良川は子どもの頃から暮らしのなかに同化した、切っても切り離すことのできない存在だが、その川が近年、姿を変えつつあることに心配の念をつのらせる。荒廃が進み地盤のゆるんだ周りの山々からは、雨が降るたびに大量の土砂が吐き出される。ウナギや魚にとって居心地のよかった起伏や緩急のある住処は徐々に失われ、平坦でまっすぐの変化に乏しい景観が増えてきた。

過疎と高齢化の流れは止まらず、川で遊ぶ子どもの姿も減った。大澤さんは漁協や守る会などの取り組みを起点に川や山の環境保全を進めて美味なアユやウナギをピーアールしたい、川と人との触れあいを取り戻して町おこしを図りたいと抱負に力を込める。そのぶれのないまっすぐな想いからは、地域の未来をたぐり寄せようとする確かな力強さが伝わってきた。 

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