里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(5)」〉製品の魅力をみがき消費者にアピール 「うなぎボーン」を製造する「京丸」代表取締役 片川喜好さん

〈『日本養殖新聞』2012年10月15日号掲載、2020年4月13日加筆修正〉

ウナギの中骨を揚げて味付けした「うなぎボーン」。スナック感覚でつまめる手軽さにカリっとした歯ごたえ、後をひく香ばしさから食べだしたら止まらない。いまや多くの会社が中骨を使った同様の製品をつくっている。そのロングセラーをうみ出した元祖の会社が、静岡県藤枝市にある。ウナギの中骨や肝などを扱う「京丸」の代表取締役・片川喜好さん(57)は、父親の故嬉一さんがつくりあげた味を守りながら、より多くの人に食べてもらいたいと「うなぎボーン」の販売に力を入れている。

片川さんの案内で、工場のなかを見せてもらう。ウナギのもつ独特のにおいが立ち込めるなか、白衣を身にまとった従業員たちが手先に集中し、ウナギの中骨から血合いを取り除く作業を黙々と行っていた。「一本ずつきれいにするこの作業が一番大変」。機械にはまかせられないこの工程が、商品の良し悪しを決めるポイントになるという。

県内や隣県の愛知から仕入れた中骨は、きれいに洗い、汚れを除いていったん凍結保存する。解凍後、水にさらして蒸し、一口サイズにカットしたものを油で揚げて、味をつけるのが加工の基本。一番人気の醤油のほか、塩、わさび、甘口ゴマ風味、からし付きの5つの味の種類があり、製造工程はそれぞれで多少異なる。

同社が「うなぎボーン」を開発したのは30年以上も前のこと。代表を務めていた先代が、試行錯誤をかさねて形にした画期的な製品である。「チャレンジ精神が旺盛だった。残った中骨でなにかできないか。もったいないというのが開発を始めたきっかけ」。片川さんは父親の思い出とともに製品が誕生した歴史を振り返る。この「うなぎボーン」が肝吸い、肝のうま煮とあわせて、同社の食品事業を支える柱となっている。

高校卒業後に地元をはなれ、多摩美術大で中途まで学んだ片川さん。一時期は東京でアニメの製作にも携わった異色の経歴をもつ。地元にもどり家業を手伝うようになってからは、近くの焼津市や吉田町にあるウナギの加工場をおとずれ、中骨や肝を集めてまわった。その当時は「うなぎボーン」が発売されたばかり。これまでになかった新しい製品だけに、土産物屋や量販店への売り込みには苦労があったという。

片川さんがいま心配するのは、ウナギの資源問題だ。原料が確保できて成り立つ商売であり、ウナギに関わる業界全体の発展を願う気持ちは強く、中骨の有効利用を通して、これからも役に立ちたいとの思いがにじむ。

夏場に需要が多く、量販店では蒲焼きとあわせて販売されることが多いという「うなぎボーン」。製品のもつ魅力をさらにみがき、幅広い消費者にアピールしていくことが今後の課題。子どもや若い女性にも好評なことから「まだまだ販路は広がる」と意気込んでいる。 

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