里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(15)」〉地元の魅力を発掘して発信 「津ぅのうなぎプロジェクト」を企画運営する 増田芳則さん

〈『日本養殖新聞』2013年8月15日号掲載、2020年4月14日加筆修正〉

人口28万人を抱える三重の県庁所在地である津。その名が表す通り、古くは海港として栄えた。戦国期にこの地方を襲った明応地震や発展の礎を築いた藩祖・藤堂高虎による統治など、さまざまな曲折を経て現在の都市を形づくる。

城下町の雰囲気が漂う街中を歩くと、積み重ねてきた歴史の息吹のようなものが伝わってくる。伝統文化が色濃く残るこの地で近年、注目を集めているのがウナギである。市内には22の専門店がひしめき、切磋琢磨しながら良質な蒲焼きを提供する。ウナギの消費は全国のなかでも旺盛で、老若男女がボリュームのある丼ぶりに舌鼓をうつ。

津のウナギが脚光をあびるようになったたのは、平成18年に地元の有志らで結成された「津ぅのうなぎプロジェクト」が始まり、観光促進を目的に誕生したローカルヒーロー「津に来て戦隊ツヨインジャー」がピーアールするようになってから。市内のウナギ店を紹介する無料ガイド「うまっぷ」を作成してスタンプラリーを企画したり、多くの店の協力を得て弁当を販売する「天下一うな丼会」を開いたり、自治体に頼らないユニークな活動が話題を呼ぶ。

活動の企画を担っているのが増田芳則さん(33)。市役所に勤めるかたわら、仲間らと非営利の市民団体を組織してプロジェクトを運営、ネットも駆使しながら津のウナギの魅力を発信する。

農漁業の盛んな静岡県牧之原市で生まれ育った増田さん。ウナギとの出会いは、故郷を離れて津で暮らすようになった大学生時代にさかのぼる。ウナギ店で2年間アルバイトを経験し、「ものすごくウナギを食べる街だと思った」。津では若者がデートをしながら味わい、高校生が部活帰りに立ち寄って腹を満たすのが日常茶飯。ウナギは「津ぅのソウルフード」。増田さんは地元のなまりで愛着を込め、穏やかに語る。「こんな特異な食文化は他の地域にはない」。このときの驚きがいつまでも残り、その後の「うまっぷ」などの斬新なアイデアを生む。

デザインから文章まで工夫をこらし、想いを凝縮した最初の「うまっぷ」ができあがると、その反響は大きく、掲載された店の関係者らも驚くほど。プロジェクトが掲げる「津はウナギ、ウナギは津」のキーワードは市外にも浸透し、ウナギだけでなく、他の特産物や名所などもメディアで取り上げられるようになる。その「うまっぷ」も、昨年発行された最新のもので7作を数える。

4年続く稚魚の不漁によって仕入れ価格が高騰し、津のウナギ店も経営は苦しい。増田さんもなんとか応援したいと模索するが、「なかなかよい知恵がでてこない」と表情を引き締める。それでも「津のウナギはレベルが高い」と自信をもって薦め、市内にある一つひとつの店の特徴について力説する。

ライフワークと位置づけるこうした市民活動に、増田さんは「単純に楽しいから」と笑顔で答えるが、そこには「皆さんにより良い心持ちで暮らし続けてほしい」という行政マンとしての責任感もかいま見える。「ウナギをきっかけに津をもっと知ってほしい」。そう話してまっすぐに見つめる増田さんの原点は、いまもぶれることなく輝いている。

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