里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

〈新美貴資の「めぐる。(48)」〉地道な取り組みを継続 碧南海浜水族館・碧南市青少年海の科学館 主任学芸員 地村佳純さん

〈『日本養殖新聞』2016年6月15日号掲載、2020年4月17日加筆修正〉

昨年夏、愛知県碧南市碧南海浜水族館で特別展「おいしいウナギの話」が開かれた。日本人にとって馴染みの深い魚でありながら、その生態に謎の多いウナギ。近年は、漁獲量が激減し絶滅危惧種にも指定され、資源の枯渇が懸念されている。そんなウナギを、同水族館はこのときの特別展で初めて取り上げ、その生態から食文化、漁業や養殖など、さまざまな角度から展示や解説を行った。

三河はウナギどころで面白いと思った。食文化を切り口に新規の来館者を開拓できたら」。主任学芸員の地村佳純さん(43)は、企画したきっかけについて話す。

特別展のなかでもひときわ目をひいたのは、地元のウナギ店に出演してもらい作成した、土用の丑の日や蒲焼きの由来、なぜウナギは刺身で食べないのかなどを説明するパネルと、調理について語るウナギ職人のインタビュー映像だ。取材した地村さんは「地域と大人を意識した」と意図を明かす。その手法の斬新さと面白さに多くの来館者が関心を寄せた。

地村さんは、和歌山県岩出市で生まれ育った。サラリーマン家庭のもと、子どもの頃から魚を捕まえ海で遊んだ。魚に興味があり自然を学びたいとの思いから、高校を卒業すると遠く離れた琉球大学の理学部海洋学科に進む。

大学では、河川に定着している外来種の生活史を調べたり、重要な水産種の年齢を調べたり、稚魚を捕獲し産卵期を探ったり、いろんな調査に従事した。研究にのめり込み、同大学の大学院へと進学。休日も海にもぐり、沖縄の自然を満喫する。

大学院の修了をひかえ、職員を募集していた同水族館に応募。採用され、それまで縁のなかった愛知の西三河にやってくる。

水族館で働いて20年近く。学芸員として生き物の飼育や調査・研究、見学者への説明や展示の企画など運営のすべてに関わる。

「生き物を飼うプレッシャーはつねにありますが、学芸員としての仕事は面白いです。一つのことに腰をすえた研究はなかなかできませんが、人とのつながりが広がり、なんでもやることができる」。昨年夏の特別展も、市内で営業する4軒のウナギ店に飛び込んで企画を説明。そこから新たな交流の輪が生まれ発展し、成功につながった。

各地の水族館では、集客の増加を狙った目新しい話題が脚光を浴びる。地村さんもさまざまな催しを企画するが、第一義には「種の保存と教育」があるとし、この水族館が守ってきた大切な取り組みを継続する。「地元の生き物を守り、現状を伝える」ため、近くを流れる矢作川の調査を行ったり、市内の全小学校と連携し授業を実施したりしているのもその一環だ。

三河の生き物の情報を発信し、ひとも集まるような、そして来館者と身近な自然の情報についてやり取りができる施設を目指したいです」。

今年の夏はコウモリの特別展を開く予定で、来館者が楽しんでもらえるような企画をねり、準備を進める。地村さんの忙しい夏がまたやってくる。

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