里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(73)」〉地方から懸念が高まる水産政策改革 だれのためのなんのための成長なのか

〈『日本養殖新聞』2018年7月15日号掲載、2020年4月17日加筆修正〉

水産庁による水産政策の改革についての説明会が6月から全国六つの会場で開かれ、神戸会場に参加した。6月1日、政府は「農林水産業・地域の活力創造プラン(改訂版)」を決定し、水産政策改革の内容が示される。この改革は、同月15日に閣議決定した「骨太方針」に盛り込まれた。改革の方向性は「水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立させ、漁業者の所得向上と年齢のバランスのとれた漁業就業構造を確立することを目指す」というものである。

改革の内容について、心配する点はいくつもあるが、その一つは、資源管理における個別割り当て(IQ)の導入である。

IQとは、漁獲可能量を漁業者または漁船ごとに割り当て、割り当て量を超える漁獲を禁止することによって漁獲量を管理する手法で、欧米では広く導入されている。漁獲競争が排除され、過剰投資が抑制されるなどのメリットがある一方、価値の低い小型魚が洋上で投棄される、管理コストがかさむなどのデメリットがある。

日本は欧米の国々と比べて、漁業者や漁船の数、獲れる魚の種類がはるかに多い。また経営体も小規模の零細な漁家が主体で、伝統的な漁法が多種にわたる。だから日本では、漁獲可能量を漁業者に割り当てない自由競争のオリンピック方式を基本としてきた。

漁船の隻数やトン数制限などのインプットコントロール(投入量規制)、漁期や漁場、網目制限などのテクニカルコントロール(技術的規制)を中心とする国や都道府県による公的規制と、漁業者の自主的管理を組み合わせた資源管理は、日本の多くの漁業にとって合理的な手法である。

改革ではIQの導入は沖合漁業を想定しているようだが、その対象をどこまで拡大していくのか、注意深く見ていかなければならない。また今回の改革には記されていないが、もしIQが譲渡性(ITQ)になれば、一部の漁業者による寡占化が進み、漁村社会が壊れてしまう恐れもある。

説明会では、漁業関係者からの疑問や懸念の発言が止まなかった。「自主管理を含めやれる資源管理はやっている」「豊かな漁場の整備が大事。これがあって資源管理になる」といった発言はもっともな意見である。「漁業を持続的に維持するには、生態系も地域社会も経済活動も、持続的に維持する必要がある」(『乱獲』レイ・ヒルボーン、ウルライク・ヒルボーン著)。

既存の秩序を壊し、つくり変えなければならないという改革病が蔓延している。だれのためのなんのための成長なのか。この他にも、地域漁業の根幹を揺るがしかねない改変が行われようとしており、改めて問題点を提起したい。

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