里山川海を歩くライターの活動記録

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〈新美貴資の「めぐる。(82)」〉理念や具体像が不明の水産改革 日本水産学会がミニシンポ

〈『日本養殖新聞』2019年4月15日号掲載、2020年4月18日加筆修正〉

日本水産学会春季大会が3月26日から29日まで、東京海洋大学で開かれた。同学会水産政策委員会主催のミニシンポジウム「『水産政策の改革について』の意義と問題点」が26日にあり、参加した。

漁業就業者の高齢化や漁村の過疎化が進むなか、水産政策は大きな転換期を迎えている。昨年6月に水産庁が発表した「水産政策の改革について」は、これまでの資源管理方策や漁業制度の仕組みを大幅に変更したものとなり、同年12月の臨時国会で改正漁業法が成立した。

この改革について理解を深めるために開かれたミニシンポジウムでは、5名の研究者が話題を提供し、改革の意義と問題点について参加者が意見を交換した。会場での発表から、特に重要と思われる点を紹介したい。

櫻本和美氏(東京海洋大学)によれば、改革が提案するMSY(最大持続生産量)理論に基づく資源管理は、産卵親魚とその親が生む子との関係をベースに成り立つ、古典的なものであるという。

櫻本氏は、古典的な密度依存の概念に基づく資源変動理論は誤りで、加入量は産卵親量と環境変動によって決まると主張。改革が提案するMSYベースの資源管理に科学的正当性はないとし、資源変動理論を見直して、正しい理論に基づいた資源管理を構築すべきであると訴えた。

新たな漁業法では、大臣許可漁業における漁船の大型化を容認している。二平章氏(茨城大学)は「漁船規模が自由化し大型化が可能となれば、導入コスト増を補うための漁獲圧力が増大、資源への圧力が強まる」とし、「沿岸漁業経営体との資源と漁場をめぐる操業軋轢が高まる」ことに懸念を表した。

また漁獲量管理にIQ(個別割当)方式を導入することによって、低価格魚の海上投棄、割当を消化した後に非IQ魚種への圧力強化やIQ魚の投棄がおきる可能性があると指摘。とるべき措置として、船位データの公開、操業映像モニター装置の設置義務と公開、オブザーバーの乗船義務、沿岸漁業者からの苦情処理委員会の設置などを挙げた。

今後について二平氏は「各県自治体の役割が重要」になるとし、大型化・漁獲圧力増となる大臣許可漁業から地域の沿岸資源・漁業を守るため、様々な方策を検討する必要があることを強調した。

海面利用制度の運用をめぐる論点について、工藤貴史氏(東京海洋大学)は、水産基本法及び改正漁業法の基本理念に則った漁場利用の優先順位は、①国民への水産物供給、②地域発展―であり、輸出型養殖業による海面利用促進は「次善の策」との考えを示した。

そして、漁場の総合的利用と漁業生産力の発展の実現に向けて、「漁業者と行政の共同管理体制を高度化していく必要があり、今後も漁業者を主体とする漁業調整は重要である」と話した。

新漁業法については、現状認識が不十分、改革の理念や望ましい具体像が不明であるといった疑問の声があがった。筆者もまったく同感である。

漁業者の多くは、今も改変された内容について説明を受けていない。このようななか、成立までの過程を含め多くの問題がある新法について、意見を交わす場を設けた同学会の存在は大きい。

新法は、公布から2年以内に運用の仕組みなどが定められ、施行する。学問的見地から声をあげる、研究者の役割に期待したい。

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