〈『日本養殖新聞』2021年7月5日号寄稿〉
愛知県名古屋市昭和区の「うなぎ屋 比呂野」(廣野耕史社長)は、今年5月までにうなぎ弁当1000食を医療従事者やひとり親家庭に無償で提供した。こうした取組に人びとの共感が集まり、同店には感謝や応援の声がたくさん寄せられている。
同区山花町でウナギ専門店を経営する廣野さん(37歳)は、新型コロナによって医療体制が逼迫していることを知り、「うな丼を食べて元気をつけてもらいたい」と、今年1月から5月にかけて八事日赤病院、名古屋市立大学病院など近くの5つの病院に計800食のうなぎ弁当を無償で提供した。さらに、コロナ禍で苦しい生活を強いられているひとり親家庭にも200食を贈った。
自身の店もコロナ禍の影響を受け、経営はけっして楽ではないが、廣野さんは「自分の身の周りでできることをやって、助け合いの気持ちが生まれれば」と話す。
こうした活動が新聞やテレビなどで報じられると大きな反響を呼んだ。なかには茨城県から米1俵を送ってくれる生産者も現れ、ネットでは好意的なコメントが多く書き込まれた。
廣野さんが、生まれ育った地元にウナギ専門店を開いたのは2010年。その後すぐに稚魚の不漁によるウナギの高騰に見舞われる。出店したばかりで客もついていないなか、値上げにも踏み切れない苦しい日々が続いたが、努力を重ねて舌が肥えた地元の客を満足させる味を作り上げ、店のファンを増やしていった。
自分をここまで育ててくれた地元へ恩返しをしたいという気持ちから、区内にある児童養護施設の子供たちを毎年1回店に招待し、作った料理を提供。従業員による歌の披露やビンゴ大会などを企画し、楽しんでもらうボランティア活動を10年以上続けている。
「商売は持ちつ持たれつ」という廣野さん。同店のうな丼には、地元に対する愛着と客への感謝の思いがこめられている。
【訂正】紙面に記載されている2枚目の写真の説明文にあります「地上」は「地元」の誤りです。お詫びして訂正いたします。