里山川海を歩くライターの活動記録

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【新美貴資の『めぐる。〈114〉』】プランクトンネットを自作 ミジンコを探してみた

〈『日本養殖新聞』2021年11月15日号寄稿〉

水の中で暮らすミジンコをみなさんは見たことがありますか?この生き物は、多細胞生物でちゃんと神経を持っている。エビやカニと同じ甲殻類で、動物プランクトンの仲間である。泳ぐことはできるが、遊泳力が弱いため、水がよどんでいる池や湖で見られる。

最近、微生物の世界が突然目の前に大きく開いて、引きずり込まれてしまった。きっかけは、湖沼の動物プランクトンについて詳しい研究者の花里孝幸さんが書いた『自然はそんなにヤワじゃない』(新潮社)を読んで。生態系保全生物多様性について考えてみたくなり、手にとったうちの1冊だった。

さらに花里さんが書いた『ミジンコはすごい!』(岩波ジュニア新書)を読んだ。捕食者から食べられないよう頭をとがらせたり死んだふりをしたり、体を透明にしたり深い所にもぐったりして形態や行動を変化させ、餌や酸素の不足といった環境の悪化にも柔軟に対応する、巧みな生存戦略と緻密な進化に驚いた。

ミジンコは、生態系の維持に重要な役割を果たしている。『ミジンコはすごい!』によると、魚やエビ、イモリ、ヤゴ、アメンボ、ダニ、ワムシなど、たくさんの生き物から餌として利用され、食物連鎖に欠くことのできない存在となっている。ミジンコは、内水面の食物連鎖の上位にいるウナギや私たち人間も含めた同じ一つの生態系の中でつながっているのだ。

こんなに体は小さくても、そこには複雑で多様な生態があり、他の生き物と広くて深い関わりがある。なんだか面白そうだ。そこで、ミジンコを観察したいと思い実行に移してみた。

まずは、ミジンコを採るためのプランクトンネットを作らなければならない。それも、安価で簡単にできるのがよい。ネットで調べてみると、いろいろな情報が載っている。

100円ショップや釣具店で洗濯機のごみ取りネット、小型のボトル、環付きのおもり5号などを買い、写真のようなプランクトンネットを作ってみた。このネットをたこ糸で結び水の中で引くと、開口部から奥のボトルに微生物が集まる仕組みになっている。

プランクトンを採取しに近くのため池へ向かった。池の水は透明度が低く、緑と茶を混ぜたような色で濁っていた。岸から何度かプランクトンネットを投げて引くことを繰り返し、ボトルに貯まった水を瓶に移す。瓶の中の水は無色透明で、生き物の姿は見えなかった。

その後、自宅に池の水を持ち帰り、ハンディ顕微鏡で調べてみた。肉眼でもなんとか見えるくらいの動く生き物が1匹いて、撮影することに成功した。それが、初めて見るミジンコだった。ミジンコにもいろいろな大きさ、形のものがあるので種名はよく調べてみないとわからないが、躍動する小さな命に感動を覚えた。

翌朝、目が覚めて起きると、瓶を手に取りミジンコが元気でいるか確かめた。ぴょんぴょんと泳ぎ回っていた。私は自宅でミジンコをしばらく飼ってみることにした。

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ハンディ顕微鏡に写ったミジンコ(250倍)。付属のアダプターを使いスマートフォンで撮影

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