里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

〈新美貴資の「めぐる。(31)」〉割きも串うちも一生 ウナギ専門店「なまずや各務原分店」二代目 西脇 潤さん

〈『日本養殖新聞』2014年12月15日号掲載、2020年4月16日加筆修正〉

岐阜県美濃地方の中濃と西濃にはさまれたなかにある岐阜地区。地区の南部に位置する各務原(かかみがはら)市は、県庁のある岐阜市と隣接し、南端を流れる木曽川をはさんで愛知県と向かいあう。岐阜や名古屋のベッドタウンとして発展を続ける同市を訪れたのは、やわらかな陽光が降りそそぐ、連日の寒波から解放されたのどかな昼さがり。市内の東西を走る、JR高山本線の那加駅を降り、ゆったりと流れる新鏡川に沿って並木道を15分ほど歩くと、目指す「なまず各務原分店」の看板が見えてくる。

ウナギ専門店として、各務原で30年以上にわたり商いの歴史を重ねてきた同店。この日も平日昼の営業が終わる間際だというのに、店のなかは多くの客でにぎわい、地元の人びとに親しまれ、繁盛している様子がうかがえる。

和を基調にした、清潔感あふれる落ち着いた店内で、熱々のウナギをのせた丼を味わう。運ばれてきた丼の中身と対面したら、まずはその姿と匂いを愛で、その後は全神経を味覚に集中し、夢中になって頬張る。つややかに輝く蒲焼きは、甘めのタレがしっかりとのり、炭火で香ばしく焼き上げられた表面と、ふっくらとしたやわらかい身の絶妙な対比が、地焼きの魅力を発揮する。地域が育み、職人の手によって培われた味と技を凝縮した丼のなかには、この店でしか味わえない特別な世界がひろがる。

「表面がさくっとして、なかがふわっとしている。そんなウナギを目指しています」と話すのは、二代目の西脇潤さん(36)。店は焼き場に立つ西脇さんを中心に、父や母、弟や奥さんら一家で協力、分担して運営する。

店であつかうウナギは、周年で脂がのりうまみがあるという鹿児島や宮崎県産。創業から継ぎ足して使うたれは、岐阜県産のたまりに焼いたウナギの骨を加えてだしをとり、薪(まき)に火をともして約5時間、じっくり炊いて仕上げる。みりんは一切使わない。米は、西脇さんが生まれた自然豊かな県内郡上市和良町で生産された良質なもので、漬物は自家製と、提供する一つひとつにつくり手の真心がこもる。

高校生の頃から、出前や串うちの作業を手伝っていたという西脇さん。大学生になってからは、洋食や和食の飲食店、事務などのさまざまなアルバイトを経験するが、「料理で喜んでもらえるのが一番うれしいと気づいた。なにをやろうかと考えたときに、ウナギしかなかった」と、家業を継ぐことを決意した当時を振り返る。

大学在学中の頃より、岐阜市内の蒲焼き店や割烹で働き、ウナギの割き方などを学んだ後は実家の店へもどり、父親のもとで修業をつむ。入店以来、西脇さんが行う大切な日課のひとつが、毎朝仕入れる活鰻の品質チェックだ。「丸のウナギを見て、状態を確認してからつくりたい。だめなウナギは持った瞬間にわかる」。その良し悪しを見分ける目は確かで、客に上質なウナギを味わってほしいとの思いから、仕入れるウナギは自信をもって提供できるものを選びぬく。

父親から吸収し、体得した技を土台に、さまざまな試行をこころみ改良を加える。割き方ひとつをとっても、ウナギを寝かせる位置や当てる刃の角度、割くときの腰のひねりや力の入れ具合などによって、繊細な身質は大きく変わり、焼き上がりにも影響するという。経験と思考から導きだす、手を抜かない一つひとつの作業と工程が、店の味を決める。「自分の求めているものと、お客さんの求めているものが合っているかどうか」をたえず自らに問いかけ、「ウナギの性質(たち)を見極めて、つねに一定のおいしさを提供したい」と意欲をあらわす。

「腕はまだまだ。自分のスタイルは固まってきましたが、それでも一生満足はしないのでは。焼きはもちろんですが、割きも串うちも一生。こうした技術をしっかり継承していきたい」と、ゆっくり選ぶ言葉に力をこめる。

真摯な姿勢で研鑽をかさねる西脇さんの愚直な歩みは、さらなる飛躍を新年にもたらし、より多くの客に喜びを届けることだろう。ウナギ食文化の発展へ、今年もたくさんの出会いと感動を求め、各地をたずねたい。

f:id:takashi213:20200226141111j:plain