里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】伊勢湾の恵みを受け、多くの魚介類で活気にわく南知多町・豊浜

〈『DoChubu』2009年10月15日更新、2020年4月19日加筆修正〉

わたしたちにとって身近な海である伊勢・三河湾は、多くの魚介類が獲れる全国でも有数の豊かな漁場です。湾に面した各漁港では、季節ごとに旬の魚が水揚げされ、産地から消費地へと出荷されています。このコーナーでは、伊勢・三河湾およびその流域で獲れる魚介類を紹介するとともに、生産から流通・加工までの現場の様子やそこで働いている人々の声を伝えていきます。

伊勢湾に面した愛知県南知多町の豊浜は、シャコやアナゴをはじめ100種類もの魚介類が水揚げされる県内有数の漁業地区です。現在は200隻以上の漁船が稼動して、伊勢湾内のほか三河湾渥美半島沖の外海でも操業。連日、多くの魚が漁獲されて、漁港の魚市場でセリにかけられています。

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愛知県内でも有数の水揚げ量をほこる豊浜漁港

豊浜漁港でいま、たくさん水揚げされているのがカタクチイワシです。漁港を訪れたのは10月12日(月)の午前10時過ぎで、ちょうど水揚げを行っている最中でした。接岸している漁船の船倉からは、太いポンプで吸い上げられた大量のカタクチイワシが、選別機を通って岸壁の大きな水槽のなかへと勢いよく運ばれています。陸では漁業者の奥さんたちが黙々と水揚げの作業を手伝っていました。

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水揚げされたばかりの大量のカタクチイワシ

水槽に近づくと、10センチぐらいのカタクチイワシがいっぱいで、獲れたばかりの魚体はピカピカに輝いていました。「いま獲れているのはだいぶ大きくなったもの。少し前まではもっと小さかったよ」。水槽に混ざった他の漁獲物を取り除いたり氷を入れたりしながら、年輩の女性が笑顔で教えてくれます。この間にも、たくさんのカタクチイワシが選別機から流れおちて水槽を埋めていきます。カタクチイワシは日本でもたくさん獲れる主要魚種の一つで、目刺しや煮干しなどの食用以外にも釣り餌や肥料などに使われています。

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水揚げされたばかりの大量のカタクチイワシ

豊浜漁業協同組合市場購買課長の石黒一行さんによると、この日の漁場は三重県四日市沖。水揚げ量は約180トンでほぼ例年並みだそうです。カタクチイワシを獲る漁法は、2隻の船で袋状の網をひく船びき網漁業で、1船団は網をひく網船と手船、さらに魚を運ぶ運搬船の3隻からなっています。豊浜では例年6月から10月までがカタクチイワシの獲れるシーズン。この日も朝9時すぎから午後3時まで6船団が操業し、水揚げが続きました。

料理の隠し味として人気を集める「しこの露」

豊浜の特産品としていま人気を集めているのが、伊勢湾で獲れたカタクチイワシを原料にしてつくった無添加魚醤油「しこの露」です。カタクチイワシのことをこの地では「しこ」と呼ぶことから名づけられたこの製品。豊浜水産物加工業協同組合が愛知県食品工業技術センターの指導を受けて平成12年に開発した「魚醤」で、魚を原料にした全国でもめずらしい天然の調味料です。

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平成15年度全国地場産業大賞優秀賞を受賞した『しこの露』」

豊浜では年間約1万4000トンものカタクチイワシが水揚げされますが、脂がのっているものは煮干などの加工品には不向きなことから、その9割以上が養殖魚の餌などになっています。たくさん獲れるカタクチイワシの有効利用を図ろうと商品化されたものが「しこの露」です。獲れたての新鮮なカタクチイワシに塩をまぜて、1年半以上漬け込んでじっくり熟成させます。さらにいくつかの工程をへると、臭みのない深みある味の「魚醤」ができあがるのです。

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時間をかけて熟成させた原料から手作業で製造しています

料理のうま味を引き立てる隠し味として、鍋物や煮つけ、炒め物、スープなどに幅広く利用されている「しこの露」。「漬物やドレッシングなど加工食品にもかくし味として使われ、用途が広がっています」と話すのは同組合で魚醤を製造している相川和男さん。他の魚醤に比べて値段も手ごろなことから、市販用はもちろん、食品会社や飲食店など業務用での需要が増えているそうです。値段は250ミリリットル入りが500円。1リットル(業務用)入りが1200円となっています。

たくさんの魚介類で活気にわく魚市場

「伊勢湾ではおいしい魚がいっぱい獲れます。豊浜の魚をもっと食べてください」と話すのは豊浜漁協組合長の山本昌弘さん。小型底びき網漁業を営んで30年以上になるベテラン漁師で、自らが獲った魚を名古屋の消費者に対面で販売したり、県内で開かれるイベントで漁業の現状について語ったりと、魚食普及に力を入れています。

また、地元の活性化に向けた取り組みにも積極的で、昨年7月には自身も参加する豊浜まちづくり会で「第1回おいなぁ市」を開催するなど、漁を続けながら多方面で精力的に活動しています。「木曽三川が流れ込む伊勢湾はすばらしい漁場なんです。消費者のみなさんとのコミュニケーションを大事にして、シャコやアナゴなど豊浜の魚をもっとピーアールしていきたい」と話してくれました。

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豊浜の活性化に取り組んでいる山本組合長

豊浜漁港では通常、早朝と夕方の2回にわたって魚市場が開かれ、競りが行われています。この日は台風も過ぎ去って漁模様も好調。15時半から始まる夕方の競りではスズキ、サバフグ、アカダイ、カマスなど、水揚げされたばかりの数多くの魚介類が市場にならび、買い付けに訪れた多くの仲買人で活気にわいていました。

豊浜では、「第3回おいなぁ市」(豊浜物産市)が11月21日(土)午前10時から午後3時まで、漁協魚市場および「豊浜魚ひろば」で開催されます。海産物や野菜の直売のほか、楽しいイベントも予定されています。また、「豊浜魚ひろば」では、地元で獲れた新鮮な魚介類や加工品をお得な値段で買うことができます。海の幸がいっぱいの豊浜へ、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。(新美貴資)

※記事中に記載されている価格は、取材当時のものです。

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