里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】ホクホクな身がたまらないタイの塩釜焼き!第41回「味わって知る わたしたちの海」

〈『DoChubu』2011年4月8日更新、2020年4月21日加筆修正〉

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塩釜を勢い良くたたき割るとタイのホクホクな身があらわれます

伊勢・三河湾でとれる旬の魚介類を調理して味わう、なごや環境大学の人気の講座「味わって知る わたしたちの海」(主催:伊勢・三河湾流域ネットワーク、山崎川グリーンマップ)の今年度(2010年)第6回目が2011年1月20日(木)、名古屋市昭和区の昭和生涯学習センターで開かれました。

講師には中部水産の販売促進部長で、愛知県で唯一のおさかなマイスターでもある神谷友成さんを迎え、「鯛の塩釜焼き」「海の七草粥」「生海苔の佃煮」などをつくりました。「鯛の塩釜焼き」には、玄界灘で獲れた福岡産のタイを使用。「海の七草粥」には、県内南知多町のアナアオサ、アカモクなどの海藻を使い、参加者全員で楽しく調理。名古屋市中央卸売市場で魚の流通に携わる神谷さんからは、魚の鮮度や含まれている栄養、おいしい食べ方などの話があり、味わいながら魚について楽しく学びました。

塩と相性のいい魚

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塩釜焼きに使われた立派なタイ

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七草粥で使われた6種類の海藻。普段食べることのない珍しい海藻に参加者の多くが興味を示していました

参加者のみなさんが調理を楽しみにしていたのが「鯛の塩釜焼き」です。ウロコを落として内臓とエラを取り除いたタイは、適当な大きさに切り分けて、切り口のエラのところへ長ネギを差し込ます。焼くときに使う大量の塩には卵白を加え、手でよくかき混ぜたら天板に薄くのばします。そこにタイをのせて、その上にこれでもかというぐらいたっぷりと塩を盛っていきます。

塩釜づくりは工作のよう。みなさんとても楽しそうで会話も自然と弾みます。タイをおおった塩釜は真っ白な雪の塊のようです。準備が整ったらオーブンでじっくりと焼いていきます。

「魚は塩と相性がいい。うま味がぐっとでますよ」と神谷さん。塩で魚のうま味を引き出すという神谷さんの話しに、参加者のみなさん熱心に聞き入っています。塩のついた部分は火を通しても焦げないことから、塩焼きにする時は、頭や尾に多めに塩をぬるといいそうです。

「料理は演出が一番。切り身のタイも一尾だと立派。どうやってつくって盛り付けるかを考えてください。それがご馳走になるんです」と神谷さん。それぞれの厨房をまわり参加者に積極的に話しかけていきます。

塩釜を勢いよくたたき割る

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(左)オーブンに入れる前の塩で覆われたタイの塩釜。(右)魚の形に塩が盛られ焼きあがった塩釜。たたき割って中の身をいただきます

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(左)黒々としていた海藻を湯に通すと一瞬で鮮やかな緑色に変わります。(右)生ノリはしょう油や酒など加え弱火でじっくり煮込んでいきます


焼きあがった塩釜は、オーブンから出してたたき割ります。黄色がかった塩はカチカチで、まるで岩塩のよう。あちこちの厨房から、勢いよくバンバンとたたき割る音が聞こえ、ホクホクしたタイの身があらわれると、そのたびに歓声があがります。

「海の七草粥」づくりで使われたのは6種類の海藻と1種類の青菜です。海藻はウミトラノオ、アナアオサ、フクロノリ、ワカメ、アカモク、ハバノリ。聞きなれない名前にどんな味や歯ごたえがするのか、できあがりがとても楽しみです。青菜は三つ葉を使いました。

まずは海藻を湯に通します。すると、さっきまで黒々としていた色がパッと鮮やかな緑に。参加者のみなさんもその変化を目で確かめました。「色の変化はつくる人だけが味わえる役得」と神谷さん。魚介類の調理にはたくさんの驚きと発見があります。そのままでは磯の香りが強いので、細かく刻んだ後はゴマ油で炒めて風味をつけます。お粥が炊き上がったら、その上に海の七草を加え、塩をふって完成です。

「生海苔の佃煮」は、生ノリをまず水でしっかり洗って絞ります。2センチぐらいに刻んだものを鍋に入れ、酒や砂糖、しょう油でじっくりと煮込んでいきます。家庭で残ってしまったり、悪くなったノリを使っておいしくつくることができます。

今回の料理もバラエティに富んで、参加者のみなさんもとても楽しそう。塩釜をつくってたたき割ったり、湯通しした海藻の色の変化に驚いたり、普段の家庭ではなかなか体験できない内容です。にぎやかな調理の時間はあっと間に過ぎていきます。

食事の演出は最大のご馳走

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講座でつくった「鯛の塩釜焼き」「海の七草粥」「生海苔の佃煮」

料理が完成し、参加者のみなさんでいただきました。箸を入れるとすぐにほぐれるタイの身は、ホクホクしてとてもやわらか。塩加減が絶妙で、かみ締めるほどにうま味がぎゅっと口の中に広がります。シンプルですがとても深い味わいです。頭の部分の身が特においしいそうで、ボリュームも満点。骨以外の部位は残さず食べることができ、ドロリとした食感の目玉もいただきました。

ほのかな磯の香りがただよう「海の七草粥」は、ゴマ油の風味がきいてお粥にもぴったり。塩釜焼きとの相性も良く、食べるほどに食欲が増していきます。甘辛い味付けの「生海苔の佃煮」もご飯によく合い、お粥がさらに進みます。

白身魚は和洋中どんな味付けでもあう。魚にない栄養が炭水化物。お魚にご飯、さらに野菜があれば無敵の健康な食べ物になるんです」と神谷さん。体に良い栄養がたくさん含まれている魚。なかでも、脂肪酸の一種であるEPA(エイコサペンタエン酸)は血液をサラサラにするそうで、心筋梗塞脳梗塞を予防するとして注目されています。

「器も工夫して演出効果をだすといい。タイを上手に使って見せることも忘れないで。
情緒豊かな子供をつくるのは、情緒豊かな家庭です」。神谷さんは、家庭の料理で季節感などをだす演出の大切さにも触れました。最後は「おいしい魚をいっぱい食べてください」と魚食の普及も強くアピール。プロの市場人からのバラエティに富んだ数々の話題に、参加者のみなさんも大いに学び楽しんだ様子でした。

伊勢・三河湾でとれる様々な旬の魚介類。調理だけでなく、器や盛り付けを工夫することによっても料理はさらにおいしくなります。こうした工夫のなかには、たくさんの驚きと発見があり、そのことが食材への関心をより深め、調理の楽しさへとつながっていく。「食事での演出効果は最大のご馳走」。神谷さんのこの言葉がとても印象に残った今回の講座でした。(新美貴資)

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