里山川海を歩くライターの活動記録

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豊かな食生活や地場野菜について学ぶ―JAグループ三重と三重大が「食・農・いのちの市民講座」

〈2009年8月24日執筆、2020年5月19日加筆修正〉

JAグループ三重と三重大による「食・農・いのちの市民講座」が2009年8月1日(土)、津市内の県教育文化会館で開かれました。この講座は、JAグループ三重と同大学の生物資源学部が結んでいる連携協定の一環として、新たに企画されたものです。「食を考える~子どもたちの未来のために~」をテーマに研究者3名が講師として招かれ、それぞれの専門分野について講演しました。講座には40人の市民が参加し、講演後には活発な質疑応答も行われました。

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初の市民講座に40人が参加した

冒頭、JA三重中央会の池村均常務理事、同大大学院生物資源学研究科の田中晶善科長があいさつ。池村常務は「この講座をきっかけに地元農産物への関心を深めて、豊かな食生活につなげてください」。田中科長は「大学ではあらゆることを研究しているが、今回の3つの講義はもっとも地に足のついた研究内容です」と述べました。 

講座では、教育学部の磯部由香准教授が「豊かな食生活を送るために」、大学院生物資源学研究科の荒木利芳教授が「日本の食文化と健康」、同研究科の名田和義准教授が「野菜の鮮度は地物が一番」と題して講演しました。

同研究科の石田正昭教授による司会進行で、まず磯部准教授が「豊かな食生活を送るために」と題して講演しました。磯部准教授は、生活習慣病の増加による健康状態の悪化、朝ごはんをぬくといった自己管理能力の低下、食事に対して子供たちが感謝の気持ちをもてなくなっていることなど、食生活の課題をいくつかあげました。親子で食事をする機会が減っていることも大きな問題にあげ、「いろんな会話があって食卓が団らんだった家庭の子供は人間性が高かった」という過去に県内小学校で実施した調査結果も紹介。「幼少期において豊かな食生活をおくることはとても大事なこと」だと述べました。 

さらに「子供は親、まわりの人を手本にして、自分にあてはめる。みなさん自身が豊かな食生活を送らないと子供がついてこない」と呼びかけました。どうやって食育をすればよいのかわからない親が多いというなかで、農水省などが作成した「食生活指針」や「食事バランスガイド」を使って、豊かな食生活とはなにかについて説明。家庭での食育のポイントとして、①食事は楽しい雰囲気で②共食を増やす③食事のバランスを大切にする④調理体験や買い物、畑作業などの生活体験を増やす⑤食卓で「食」を話題にあげるーことを提案しました。

続いて、「日本の食文化と健康」について荒木教授が講演しました。荒木教授は、日本人男女の平均寿命が世界でトップにあることの背景に、米や季節の野菜、魚介類を使った日本食があると指摘しました。その一方で、現代日本人の死亡原因にはガンとともに動脈硬化など血管の病気が多いことをあげて、生活習慣病、さらには肥満の予防が必要であると述べました。血管を丈夫にするタンパク質については、「動物と植物からそれぞれ1対1の割合でとるのが良く、その動物タンパク質の内訳も、陸上動物と魚介類が1対1になることが望ましい」とし、この割合を満たしている日本食のバランスの良さを強調しました。 

荒木教授によると、日本にある食材の数は約1万2000で世界一。これは中国の1万、米国の3000と比べてもかなり多く、「豊富な食材を有効利用して、偏らずに使うことが大事」だとしています。「日本の食文化を見直し、若い人に伝えていくことが必要」と話し、バランスのとれた食生活の実践を参加者に呼びかけました。

最後に名田准教授が「野菜の鮮度は地物が一番」と題して講演しました。名田准教授は、県内で生産されているキャベツやトマト、特産野菜であるナバナ、モロヘイヤなどについて、栽培方法や含まれる栄養成分を説明しました。収穫された野菜の水分や栄養分は、温度や湿度の影響を受けて時間とともに急速に奪われていきます。ホウレンソウに含まれるビタミンCは、4度で冷蔵しても1日に20%減少。35度の状態では半分以下になってしまうことから、生鮮食品である野菜の栄養成分は失われやすいものであることを強調しました。 

また産地から食卓まで、収穫された野菜を低温で管理するコールドチェーンの仕組みについてもふれ、産地から市場、小売店、消費者までの過程でとぎれることがあると指摘。「移動距離が短くなれば鮮度が高いまま届けることができる」として、地物野菜を使うことの利点をあげました。さらに、地域の農業を育てれば、地域別の食料自給率も上昇するとして、まずは特産野菜であるナバナ、モロヘイヤの食卓での利用を提案。「栄養成分の壊れやすい野菜は産地の近くにあるほうが有利。みなさんで産地を育ててください」と会場に呼びかけました。 

JAグループ三重と同大生物資源学部は2006年度より連携協定を結び、地域農業の振興や産学連携体制の強化などを進めています。2009年度は県内4ヶ所で市民講座を企画。8月22日(土)には伊賀市のゆめテクノ伊賀でも第2回が開かれました。 (新美貴資)