里山川海を歩くライターの活動記録

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【新美貴資の『めぐる。〈115〉』】挑戦が食文化を豊かに チェーン店から飲食を考える

〈『日本養殖新聞』2022年1月15日号寄稿〉

「トマト牛プレめし」「マルゲリータピザ」「ビーフシチューパイ(期間限定)」。これらは、私の好きな飲食チェーン店が提供している商品である。

普段の食事は自炊することが多いが、外で食べる時は松屋サイゼリヤマクドナルドによく行く。先にあげた料理は、どれも各店を訪れると毎回注文してしまうくらい好きな食べ物で、値段以上の価値が十分にあると思う。

例えば、「トマト牛プレめし」は「ビーフ牛プレめし」とともに、松屋が昨年11月から提供を開始した新メニュー。初めて食べてから、2週間で5回くらいはこの料理を目当てに通い、ある時は2日連続で注文した。牛めしをさっぱりとしたトマトソースで味わう、イタリアンな食べ方の提案が新しく、ニンニクの風味が食欲をそそり、なめらかなグラナパダーノチーズがトッピングで付いてくる、満足感の高い一品である。

牛めし」「カレー」「焼肉定食」など王道のメニューが並ぶなかにこうした料理を発見すると、スタンダードなところを外さない範囲で、新たな味を提案しようと模索を続ける、チェーン店のこだわりが垣間見えるようで興味深い。

安価で気軽に利用できるチェーン店を、個人店と比べて下に見るような風潮が今もある。私も以前はそういうような目で見ていた。ところが、幅広いジャンルの飲食店を経営し、レシピ開発や店舗プロデュースを手掛ける稲田俊輔氏が書いた『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社、2019年)を読んで、チェーン店にも個人店にもそれぞれの良さがあり、こうした多様さが飲食業界の進化につながっているのだと思った。

稲田氏は、同書で紹介しているチェーン店について、〈その軸足を「最大多数の人々が望む無難なもの」に置きつつも、それと並行して常に新たな挑戦を諦めていません〉とあり、こうした店は、学びが得られる〈「宝の山」〉であると説いている。チェーン店の柔軟でスピード感ある取組から、個人店が学べることはたくさんあるのではないか。

ウナギ料理は、日本の料理のなかでももっとも保守的なものの一つであると思う。私も、ウナギを食べるなら蒲焼きをご飯と一緒にかきこむのが最もおいしいと確信している。でも、もしかしたら蒲焼きをベースにした新たな食べ方や、今までとまったく異なる調理法が後に考案され、普及する可能性はゼロではない。

また、稲田氏は〈最大多数の人々が望む無難なものを提供するのはどちらかというとチェーン店の役割であり、個人店こそ果敢な挑戦ができる場であるはず〉と主張している。そして、 〈世の中には食べることが好きな人と食べることが異常に好きな人の2種類がある〉とも書いている。

調理、食べ方、店の造りなど固定概念にしばられないウナギ店がもっとあっていい。そうした作り手と貪欲な食べ手による交歓が、ウナギの魅力をさらに大きくし、食文化を豊かにしていくのではないか。個人店の新たな挑戦を期待したい。

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昨年末に岐阜県多治見市にあるウナギ店で食べた焼き具合が絶品のうな丼。ウナギ料理にはまだまだ可能性がある

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