里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】〈NPOの取り組み特集〉自然とともに生きる知恵を学ぶ 里山文化を守り伝える「NPO法人山菜の里いび」

〈『DoChubu』2011年2月22日更新、2020年4月20日加筆修正〉

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昨年(2010年)6月に開かれた飛騨美濃伝統野菜「沢あざみまるごと体験」。 この地ならではの食材である「沢あざみ」を参加者で楽しく収穫しました(写真提供:山菜の里いび)

岐阜県の西美濃地域にあって、滋賀県と接するところにある揖斐川町の春日地区。この奥深い山のなかにあって、先人が暮らしのなかから編み出した「自然とともに生きる知恵」を学び、伝えていこうと、精力的に活動を続けている組織があります。

それが平成19年(2007年)に設立した「NPO法人山菜の里いび」です。参加者に人気の里山暮らしを体験するワークショップでは、農園で野菜を育てたり、山菜をとったり、味噌やこんにゃくづくりを体験してみたり。地元の人も都会の人も一緒になって汗を流します。都市との交流を進めながら、いろんな体験を通して、楽しみながら里山の文化を学びあっています。

里山での交流を通して地域を元気にしたいと、設立から活動の幅を広げている「山菜の里いび」。組織を設立した経緯や現在の活動状況、今後の目標などについて、理事長の小寺春樹さん、事務局長の田口龍治さんにうかがいました。

やりがいは参加者が得る感動

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揖斐川町の歴史や里山の魅力について語ってくれた (右)理事長の小寺春樹さん(左)事務局長の田口龍治さん

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(左)小寺さんが見せてくれた春日豆。きれいな白い豆であんこにするとおいしいそう。 (右)この日は雪がシンシンと降り続く。訪れた事務局のまわりも一面深い雪でした

揖斐川町の出身である理事長の小寺さん。町を離れ岐阜県内の企業に長年勤めていましたが、その間も故郷であるこの地には絶えず足を運んでいたそうです。その生まれ育った町でも過疎・高齢化の問題は深刻で、担い手の減った農地は耕作が放棄され、手入れのされない山の荒廃が進んでいるそうです。

そんな状況を目のあたりにし、なんとか地域を元気にできないかと考え、行動してきた小寺さん。この地に昔から豊富にある山菜に着目し、薬草や保存食として活かされてきた先人の知恵をもう一度、世にだせないか。地域に眠る様々な資源を掘り起こして、里山の文化を伝えていこうと、長年にわたって取り組んできました。

その活動の輪が「山菜の里いび」を核として、どんどん広がりをみせています。四季を通じて、春は山菜まつりやジャガイモの種付け、棚田での田植え。夏は伝統野菜「沢あざみ」の収穫、ジャガイモの収穫祭り、伊吹薬草ウォッチング。秋は棚田で「はさ掛け」と収穫祭、とちの実を拾ってのとち餅づくり。冬はうち味噌づくり、コンニャクイモからつくるコンニャクづくりなど、様々な体験イベントを楽しむことができます。

体験イベントに訪れる参加者の多くは岐阜市名古屋市内からで、その多くがリピーターなのだそう。都会から訪れる大人も子供も、里山での体験はすべてが新鮮な楽しい学びの場です。こうしたイベントの講師を務めるのは町の人たち。受け入れる側にとっても、新たな風を呼び込む参加者との交流は大きな刺激となっているようです。

「参加者が感動してくれるのが、やりがいです」と、にこやかに語る小寺さん。その小寺さんは、県内でただ一人の山菜アドバイザーでもあります。

すばらしい人、資源がある

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参加者に人気の「とち餅づくり体験」。写真は一昨年(2009年)11月のPART1(写真提供:山菜の里いび)

お茶の上手なつくり方、おいしい豆の加工の仕方、山菜の保存方法なども、「家の数だけ違う」そう。多様さにあふれた里山は、知恵の宝庫なのです。

「忘れさられていってしまう里山の知恵を伝えていきたい」と、これからの活動に意欲をみせる小寺さん。町で暮らす定住者を増やすため、地域の資源を使った産業起こしにも力を入れています。いま人気を集めているのは、商品化した「よもぎ」の粉末です。昨年収穫したものを町内の施設で加工し、アクぬきして冷凍。ペースト状にしたものを乾燥させたもので、クッキーやパンに入れると風味が増しておいしいそうです。

元気がでる町づくりへ休む間もなく動き続ける小寺さん。最後に抱負をたずねると、「だめとなげくより、次の一歩を踏み出していくこと。ここの地域にはすばらしい人、そして資源があるんです」と力強い答えが。

体験イベントのさらなる拡充、子供向けの体験学習の実施、他地域との連携など、活動の幅はさらに広がりそうで、これからの活躍が楽しみです。(新美貴資)

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