里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】〈長久手市特集〉農あるくらしを楽しみ、地域の交流をふかめるNPO法人「長久手楽楽ファーマーズ」

〈『DoChubu』2012年1月25日更新、2020年4月22日加筆修正〉

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農を楽しみながら安全・安心な野菜をつくる「長久手楽楽ファーマーズ」

2012年1月4日より市制へと移行した長久手。同市の西側は名古屋市と接していることから、近年はベッドタウンとして開発がすすんでいます。2005年に開かれた愛知万博愛・地球博)を契機に、街はさらに発展をとげ、多くの住宅や店が立ち並ぶ新たな街へと変わりつつあります。

その長久手で、定年退職者を中心に「農あるくらし」を実践しているのがNPO法人長久手楽楽ファーマーズ(NRF)」(以下、楽楽ファーマーズ)です。メンバーは規則にしばられない自由なスタイルで農作業に参加。自らが耕した土を相手に、楽しみながら野菜の栽培を行っています。

収穫した無農薬の野菜は、市内にある産直販売所にもならび、安全・安心な野菜として地元の消費者にも渡っています。地域の親子を招いて開かれる、農産物の収穫や栽培体験も人気で、地産地消や食育の活動にも積極的です。こうした取り組みについてうかがおうと、12月の半ばにメンバーのみなさんが作業をしている農場を訪ねました。

広がる交流の輪

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設立時からある手作りの「長久手楽楽ファーマーズ」の看板。その後方には畑が広がっています

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活動内容について熱心に話す理事長の飯田正行さん

長久手市の西部、とくに名古屋に近い地域は、マンションや一戸建ての家が建ちならぶ、まさにいま発展をとげている住宅街のような眺めですが、楽楽ファーマーズの農場がある東部へと移ると、家の数もぐんと減り、畑がまわりに点在するのどかな風景が広がっています。

時々小雨のぱらつくあいにくの空模様のなか、農場に到着したのは午前9時ごろ。いまの時期は、冬野菜の収穫を終え、春野菜の栽培が始まる前の端境期だそうですが、数人のメンバーが畑で土を耕したり、収穫したネギを袋につめたり、吹きつける寒風のなかで作業に精を出していました。

さっそく楽楽ファーマーズの理事長である飯田正行さんに、組織の設立に至る経緯や活動の内容などについてうかがいました。楽楽ファーマーズがNPO法人として立ち上がったのは2006年1月のこと。勤めていた名古屋の職場を定年退職し、長年暮らす地元の長久手で楽しく農業ができないかと思っていた飯田さんは、2004年に町(当時)が「農あるくらし、農あるまち」をめざす田園バレー構想の一環として、「長久手農楽校」が開校するのを知り入学。ここで1年間野菜づくりについて学び、卒業後も農業を続けることを望む一期生の有志が中心となってグループが結成されました。

みんなが「農を楽しむ」。このことが一番と力強く語る飯田さん。NPO法人として活動が始まった当初、農場として借り受けた4反(1200坪)と貸し農園用の1反半(450坪)の土地は、背の高い雑草が根をはって生い茂る荒地で、開墾して整えるまでには大変な苦労があったそうです。

栽培では農薬を使わないため、ハクサイやキャベツなどは虫に食べられて穴だらけ。その年の気候によって、成長や実り具合も良かったり悪かったり。そんな一つひとつの出来事や変化もすべて「楽しみ」や「面白さ」であることが、生き生きと話す飯田さんの表情から伝わってきます。

現在の参加メンバーは40代から70代までの男女13人。活動の目的として、①農のある暮らしと街作りに貢献する、②食の安全・安心について関心を高める、③地域の農業の発展と振興を図る―の3つを掲げ、野菜の栽培や食育などに力を入れています。

収穫した野菜は、メンバーで平等に配分します。市内にある産直販売所あぐりん村」にも出荷し、タマネギは地元の給食センターにも納入。安全・安心はもちろん、栽培履歴についてもきちんと記録、管理しています。農場のすぐ近くにある貸し農園では、借り受けている市内や名古屋からの人々が訪れ、土を相手に汗を流します。

楽楽ファーマーズでは、多くの人に農を楽しむ喜びを味わってもらいたいと、区画した農園を希望者に格安で提供。飯田さんは「自分でつくって食べる地産地消を楽しんでもらえれば」と話します。貸し農園を利用する人たちとも、野菜づくりについて相談にのったり、情報を交換したりと交流を深めています。

また年に数回、地域の親子を招いて開く、ジャガイモやサツマイモの栽培・収穫体験のイベントも好評を得ているそう。グループの設立から始まったさまざまな活動によって、これまでになかった新たな交流の輪がうまれ、広がりをみせています。

マイペースで黙々と作業

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産直販売所あぐりん村」にネギを出荷するため準備をするメンバー

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(左)農場で収穫されたネギは生き生きとした表情をしていました。(右)「まじめに作りました。」と書かれたラベルを貼って出荷します

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マイペースで農作業を楽しむメンバーのみなさん。農場のずっと先には愛知万博の会場となった愛・地球博記念公園モリコロパーク)の観覧車が見えました

この日は飯田さんを含む4人の男性メンバーが農作業に参加。一年の間に栽培する野菜は、ダイコン、ニンジン、ナス、キュウリ、ピーマン、トマトなど20種ほどですが、ちょうどいまは冬野菜の収穫を終え、ならんでいる野菜はごくわずか。それでも元気に育っているネギやハクサイが畑の一部をうめ、エンドウやタマネギの芽がぴんと伸び、すくすくと育っていました。

メンバーのみなさんは、収穫したネギを袋につめたり、耕運機で土を耕したり、畑にまいて肥やしにするサツマイモの長いつるを刻んだり。マイペースで黙々と作業をこなしています。畑のまわりは、一戸建ての家がところどころに点在するぐらいで、周囲の視界をふさぐ大きな建物はありません。

農場のやわらかな土を、意識しながらゆっくりと踏みしめて歩き、うるおった土や草木の息吹を感じる空気を、深く吸い込みました。のんびりとした静寂のなかで、バタバタバタと耕運機の音だけが、リズミカルに心地よく響きわたります。

地域の人たちに喜んでもらう

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農場で元気に育つ野菜たち

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新聞記者、コンピュータ技師、公務員、営業マンなどさまざまな経歴をもつメンバーのみなさん。これまでの経験をいかし支えあいながら活動を続けています

農場での作業は毎週月、水、金曜の週3回で、時間は朝の8時半から12時まで。やりたい人が好きなときに来て、好きな分だけ楽しむのが、楽楽ファーマーズのスタイルです。

「規則はほとんど作らないでおこうと。飯を食べているわけじゃないから」「考え方はみんな一緒になるわけじゃない。無理して一緒にしなくてもいい」。こんな飯田さんの言葉からも、グループの自由な雰囲気がうかがえます。

野菜づくりの魅力について、「体にもいいし、できたときの収穫が喜び」と笑顔で語る飯田さん。「親子で農場に来て喜んでもらったり、貸し農園で農の楽しさを知ってもらえれば」とも話します。こうした地域の人たちに喜んでもらうための活動も、メンバーのみなさんにとっては、大きな楽しみになっているのでしょう。

農を楽しみたいという飯田さんを、長久手農楽校の入校へつき動かしたもう一つの動機に、地元のことを知りたいという思いがありました。長久手で暮らして30年になるものの、職場は名古屋だったため「さっぱり知らなかった。これではいけないと思った」。そしてグループの立ち上げから6年が経過した現在。楽楽ファーマーズの活動は、地域にしっかりと根をはり、さまざまな交流をうむ場となっています。

「野菜づくりで難しいのは虫。取っても追いつかない」「トマトをつくるのは本当に難しい」。そう言いながら顔をほころばせる飯田さんのお話をうかがっていると、なんだかこちらも新たな元気がわいてきて楽しくなってきます。

「農あるくらし」を楽しみながら実践する楽楽ファーマーズのみなさん。地産地消や食育など、遊休地を有効に活用しながら地域の活性化につなげようとする活動のこれからに、期待はさらにふくらみます。(新美貴資)

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