里山川海を歩くライターの活動記録

水産のいろんな世界を歩き見て、ひとの営みや暮らしを伝えています

〈新美貴資の「めぐる。(20)」〉河川文化の創造へ疾走 岐阜の川人文化研究会 ぎふ魚食文化サロン 主宰者 長尾伴文さん

〈『日本養殖新聞』2014年1月10日号掲載、2020年4月14日加筆修正〉

卓上にならぶ天然と養殖のウナギ。さわやかな脂が口のなかで溶ける天然ものと、濃厚な味わいが後をひく養殖もの。どちらも職人の手によって調理された風味絶佳な蒲焼き。これを楽しみに訪れた人々は満面に笑みを浮かべ、それぞれの味や香りを堪能しながらゆっくりと舌鼓をうつ。

昨年8月に岐阜県下呂市の金山町で開かれた「飛騨金山七河川合流博覧会」の第1弾。7つの河川が出あう、江戸時代から藩領、郡制の境にある独特な風土が根深いこの地で、魚食、伝統漁法、綱(つな)場、魚皮拓・釣りキチ三平の4つのテーマを季節の移ろいとともに体感する催しが始まる。いくつもの清流がながれを重ねる飛騨金山を起点に、川から森、海へと意識を広げつつ、新たな河川文化を創造する試みである。

ウナギにテーマをすえ、天然と養殖ものを食べ比べるというまたとない趣向にくわえ、食文化についての講話やウナギ捕りの仕掛け、漁具の公開などが行われた初回は、定員を上回る参加者で盛況をみる。昨年12月までに第5弾が開かれ、回を重ねるたびに交流の輪をひろげるこのプログラムを発案し、企画運営の中心を担うのが、同町在住の長尾伴文さん(58)。県下の河川を対象に、漁具の収集と伝統漁法や釣りの文化を探求する「岐阜の川人文化研究会」と、漁を体験し、魚食を楽しみながら河川流域の風土をさぐる「ぎふ魚食文化サロン」を主宰する。

山河にめぐまれた金山で生まれ、高校生活までを送った長尾さん。自然の循環と人間の営みが調和した、豊かな風光がひろがる山里で育ち、近くを流れる小川を遊び場にして少年時代を過ごす。清らかな流れのなかには、たくさんの生き物であふれる豊饒な世界があり、餌のドジョウを針にかけて岩場の穴に仕掛ける「捨て針」という漁法で、「ウナギもたくさん捕れた」と原体験に思いをはせる。

京都で暮らした大学時代のころに民俗学と出会い、その魅力にひき込まれる。東京に本社をおく出版社に就職し、名古屋を拠点にサラリーマン生活を送りながらも休日には下呂へ帰り、地元の河川文化について渉猟する活動に熱中。4年前に退職した後、故郷の金山にもどり、研究会とサロンを立ち上げる。

調査と研究に没頭する河川文化は、流域で暮らす人々の営みのなかにある。活気のあった流域の町は、どこも過疎と高齢化にひんし、衰退がとまらない。「先人の営みや文化を知ることは、町づくりにも活かせる」。長尾さんは地域に活性を呼び込もうと、さまざまな企画をねり実行にうつす。魚食を切り口に、地元がもつ特産物や名所・旧跡などの資源と飲食店を活用し、内外の人々の交流をおし進めるサロンや博覧会も、その一つの取り組みである。

こうした原動力は「子どものころに遊んだ郷里の記憶」にあり、「最初から完璧は求めていない。とにかくやってみる」。旺盛な好奇心と果敢な行動力で、失われようとしている伝統文化の灯を一つひとつ拾い集め、継承し伝えるというライフワークに全霊をそそぐ。長尾さんの長年にわたるたゆみない挑戦は、共鳴する人々をつぎつぎと引き寄せて、河川文化の創造へと希望をともす。清流の国をうたう岐阜の郷土に、「これだけの川をもっているところはない」。深い愛着とゆるぎない誇りをうちに秘め、これからも走り続ける。

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