里山川海を歩くライターの活動記録

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【DoChubu掲載】たっぷりつまった身が魅力の三河湾のアサリ

〈『DoChubu』2010年5月29日更新、2020年4月19日加筆修正〉

生産量は愛知県が全国一。めぐまれた環境で盛んな漁

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三河湾の大粒のアサリ。身が太って味も濃厚です

味噌汁や酒蒸しにして食べるとおいしいアサリ。調理も簡単で、近所のスーパーや魚屋で購入することができる、身近な海の食材です。そのアサリが産卵を前に身も太って、いまちょうどおいしい旬の時期を迎えています。愛知県のアサリの生産量が全国一だということを知っていましたか?なかでも知多半島渥美半島にはさまれた三河湾は、内湾の砂地を好むアサリにとって生育に適した環境で、昔からたくさん獲れるところです。今回は、そんな三河湾でも漁が盛んに行われている、幡豆町の東幡豆を4月の終わりに訪れました。

市場に次々と運び込まれる大粒のアサリ

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東幡豆漁協の市場に水揚げされたたくさんのアサリ。この日の収穫は全部で2トン弱でした

アサリ漁が昔から盛んな東幡豆。漁が行われるシーズン中、東幡豆漁協の市場にはたくさんのアサリが水揚げされます。この日も午後1時をすぎると、地元の漁業者が漁船や軽トラック、荷車で、獲れたばかりのたくさんのアサリを運んできました。
網の袋にずっしりと詰まった大粒のアサリ。大きさは3センチから4センチぐらいで、なかには4センチを超える大きなものも。

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(左)「とうし」を使ってアサリをふるいにかけてサイズを選別する漁業者 (右)漁船のうえでも選別と袋詰めの作業が行われていました

漁業者は、獲れたアサリを「とうし」と呼ぶ道具で、ふるいにかけていきます。この道具でサイズを選別して、袋につめていくのです。「とうし」でゆすられて、ジャラジャラと小気味のいい音をたててカゴに落ちていくアサリ。市場には、身のつまったアサリの袋が次々とならべられていき、漁業者の交わす声が響きわたります。獲れたアサリは、取り引き先の仲買人の手によって、名古屋や東京などの消費地へと出荷されます。

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アサリを獲る漁具の「マンガ」。ツメのついたカゴで海の底にいるアサリを獲ります。 ベテラン漁師の牧野さんが見せてくれました。

東幡豆の漁業者の多くは、「腰マンガ」と呼ばれる方法でアサリを獲っています。「マンガ」とは、鉄製のツメのついたカゴのこと。海に腰までつかり、「マンガ」を底にもぐらせて、その柄をゆすって獲るのです。「長柄マンガ」といって、漁船のうえから柄の長い「マンガ」で深いところにいるアサリを狙ったり、波打ち際を「手かぎ」を使い「手掘り」で獲る漁業者もいます。「マンガ」のカゴの目合いは、幅の大きさが決められていて、小さなアサリが入らないようになっています。漁の道具に制限をもうけることで獲り過ぎを防ぎ、大切な資源を守っているのです。

「マンガ」を見せてくれた漁師歴50年以上になる牧野武さん。牧野さんによると、今年のアサリは天候不順の影響から成長が遅れ気味。水温が低いため、深いところにもぐってしまっているアサリが多いそうです。

三河湾に注ぐ豊川、矢作川は、アサリの成育に欠くことができません。東幡豆漁協組合長の石川金男さんは、三河湾のアサリにとって、この2つの川がとても大切だと説きます。豊川河口に広がる六条干潟は「アサリの稚貝の宝庫」だそうです。この干潟があるおかげで、三河湾のアサリは安定した量を獲り続けることができ、日々の漁が成り立っている。「三河湾のアサリは日本一です」。地先に浮かぶ前島(うさぎ島)をながめながら、笑顔で語ってくれました。

「海も田や畑と一緒。耕さないとアサリの育ちが悪くなってしまう」。市場で話をうかがうなかで、とても印象に残ったのがこの言葉です。アサリを食べてしまうツメタガイやヒトデの駆除など、漁場の環境を守る活動を行っている生産者グループ「なぎさ会」会長の三浦重男さんは話します。海に人の手をいれることで、底に生息するアサリにも酸素や栄養分がいきわたり、身のつまったアサリが成長する。長年にわたってノリ養殖やアサリ漁をしてきた経験から、いろんなことを教えてくれました。

多くの人でにぎわう潮干狩り場

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たくさんの人でにぎわう潮干狩り場。大人も子供も夢中で掘り続けていました

東幡豆の海岸には潮干狩り場があり、ちょうど今が一年でもっともにぎわうシーズン。
週末は県内や岐阜、長野などから、多くの家族連れやグループが訪れてにぎわいます。
干潮時には、海岸から地先に浮かぶ前島までが干上がって、歩いてわたることができます。あたり一帯がアサリを掘る絶好の砂地で、どの客も2、3キロは収穫して持ち帰るそう。アサリのほかにも、ツキミガイ、アオヤギ、ヒラガイといった多くの種類の貝を見つけることができます。前島には、炭火バーベキュー施設もあって、とれたアサリを焼いて味わうことができます。海風が運んでくる潮の香りと心地よい砂の感触に、子供だけでなく、大人も三河湾の自然を十分に満喫できるのでは。潮干狩りは8月13日(金)まで楽しめます。

地元で作られたこだわりの豆味噌でアサリを味わう

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魚直の人気メニュー「あさりの豆味噌焼き」。写真は小鉢、ご飯のついた定食(1000円)

東幡豆でおいしいアサリ料理をいただくことができる店を見つけました。漁協の市場から歩いてすぐのところにある、食事処「魚直」。店長の鈴木宏孝さんはじめ、店を切り盛りする家族、親類のみなさんが笑顔で迎えてくれて、新鮮な魚介類が味わえると地元でも評判の店です。ここで食べることができるのが「あさりの豆味噌焼き うおなお風」(850円)。

たくさんの大粒のアサリ、さらに今の時期はカキも、そしてネギと白菜が入った鍋に味噌ダレをかけて、蒸し焼きにします。フタをかぶせて火を通すうちに、鍋からは湯気がたって味噌の香ばしい匂いが。思い切ってフタを開けると、ぐつぐつと煮立った味噌のなか、口を開いたアサリでいっぱいです。アサリのふっくらとした身が、甘みのある味噌とぴったりあって、ご飯がどんどん進みます。残った味噌ダレは、ネギ、ゴマと一緒にご飯にかけて味わうのが、同店おすすめの食べ方。アサリのうま味がしみ込んだ味噌ダレを、最後まで楽しむことができます。こだわりの味噌ダレには、地元のすずみそ醸造場が昔ながらの手づくりで製造した豆味噌を使っています。

「あさりの豆味噌焼き」をメニュー化したのは、今から3年前のこと。地域の食材でなにか新しいメニューができないか。地元の後押しを受けて試行錯誤をかさねた結果、幡豆に古くからある「豆味噌焼き」をヒントにアサリを使ったメニューを考案したそうです。

店を訪れる年輩から若者の客まで「反応はとても良い」とのこと。相性も抜群な、アサリと味噌を使った地元ならではの料理に、これからますます人気が集まりそうです。「あさりの豆味噌焼き」の提供は6月初めぐらいまでになります(詳しくは同店にお問い合わせください)。

暖かい日が続くようになって、いよいよ本格的な行楽シーズンの到来です。東幡豆に足を運んで、美しい三河湾の景色をながめながら潮干狩りを楽しんで、地元のおいしいアサリ料理を味わってみてはいかがでしょうか。(新美貴資)

※記事中に記載されている価格は、取材当時のものです。

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